経営コンサルタントの仕事をしている中で、時々「交流分析」(米国のエリック・バーンが創始した心理学)の知識を活用する場面があります。
今回は、ある企業のコンタクトセンターにおけるマネジメント力向上のお手伝いでの事例です。そのコンタクトセンターには、業績のさらなる向上、従業員が明るく元気に働けるような環境改善、などの課題がありました。
組織の長である店長さんたちと個別に話をしていたところ、それぞれ店長さんも係長さんたちも、毎日忙しく業績向上に向けて数字の管理やオペレータさんたちの後処理やクレーム対応などで働きまわっていることがわかりました。しかしなんとなく職場のムードが沈滞していたり、業績がなかなか上向かない、やる気のなさそうな人もいる、ということでした。
よくよく聞いてみると、店長さんがみんなに「おはよう」といった挨拶をしていない、店長(男性)によっては女性が多い職場での勤務経験があまりなく、どう対応して良いのかわからない。下手に声をかけるとセクハラだと言われるのではないかと恐れ、結果として誰にも挨拶の声すらかけられなくなってしまっている、そんな状況が見えてきました。
これでは仕事をする以前だ、と感じました。各店長さんの個別の課題はそれぞれまちまちですが、コミュニケーションレスの問題はかなり多くの職場に共通していそうだということが見えてきました。朝起きて挨拶しない家族はない(ちょっと極論ですが)、ということを引き合いにお示ししました。
その上で、まず、係長さんたちに所掌のオペレーターに対して朝必ず自分から声をかけるように伝えて下さい、とお願いしました。そして、マネージャー自身が身をもってそれを示すことが大事なので、店長さんは少なくとも係長さんには必ず声をかけ、できれば何か褒めてあげて欲しい、なんでもいいから、と伝えました。その上で「交流分析」のストロークの話をしました。
・人はストロークを得るために生きている。ストロークを得ることがなければ生きていられない。ストロークには肯定的なものと否定的なものがある。それらを決めるのはストロークの発信者ではなく受け手である。叱りつけるのもストロークだが、できれば人は自分にとって心地よいストロークを得たいと思っている。否定的に感じるストロークも条件をつけて「〇〇だから良くない」という風に伝えれば、教育的な効果があるので、否定=だめというものではない。しかし、最もやっていけないのは「無視」である。
皆さんの職場の方々の多くは、この「無視」の状態に置かれていたのではないでしょうか。それでは仕事にしっかり取り組もう、この会社で頑張ろうという意欲など生まれません。従って、可能な限り、オペレーターも含め全員に挨拶ぐらいはやって下さい、というお願いをしました。
店長さんによっては「受注したらその瞬間に褒めます」と宣言をしてご自身のマネジメントのあり方の変革を始めた方もおられます。有言実行。その結果、自分から「売りましたよ」と店長席まで報告に来るオペレーターさんも登場したそうです。これまでオペレーターが店長席に来ることなどなかったのに、と仰っていました。ストロークの効果絶大です。
またある店長さんはオペレーター全員と面談をしたそうです。これまではオペレーターと面談などしたことがなかったようです。こちらから直接働きかけて会話をするということ自体、はばかりがあったようです。
その結果、職場の様々な問題点や自身のマネジメントに関する要望も沢山聞けたようです。中には個人的な悩みの相談も・・・。
次の課題はそこです。職場のトップとの直接のコミュニケーションができるという安心感、話を聞いてもらえるんだという信頼感が醸成されると、次に出てくる課題は「交流分析」でいうところの「心理ゲーム」です。もちろん、このコンサルティングは「交流分析」の授業ではないのて、心理ゲームや時間の構造化という専門的な言葉を多用するわけにはいきませんので、「コミュニケーションの段階が深まっていくと、人によっては無意識に相手を自分の心の闇に引きずり込もうとする人が出てきます」という警告を発しています。既にそういう場面に出くわした店長さんもあったようです。今後さらにそういう人が増える可能性があります。しかしそれは悪いことではなく、それだけあなたが信頼された証しです。ではありますが、あくまで会社でありビジネスの世界なので、ある程度は話を聞いても途中で仕事そのものの話に戻すことが必要です、と助言しています。さすがに「交差交流をしてみて下さい」とは言えません。
そんな風に経営コンサルティングにおいても「交流分析」の知識が役に立つ場面が色々あります。
ところで、コンタクトセンターの経営に関して何か参考になるものがないかと探してみたら、良さそうな参考図書があり2冊購入し、ひもときながら仕事をしています。たまたま2冊とも同じ方の著書でした。
![](http://teamwakuwaku.com/blogdb/wp-content/uploads/2019/11/IMG_8760-1024x719.jpg)
随所にいいことが書いてあります。「オペレータは、業務時間中、電話や画面越しに顧客と向き合い続けている。(中略)休憩時間を除いて、社内のメンバーとコミュニケーションを取る時間はない。一日の業務を振り返って、「対話をした相手は顧客だけ」という状態では、企業への帰属意識もチームワークも生まれない。(中略)家庭や友人関係についても話し合うことのできる仲間の存在が長時間の仕事に耐える拠り所になるはずだ。(中略)交換日記を行っているセンターも数多い。」「センターは、業務自体が単純ではなく、複雑化、高度化していく顧客対応に追随する専門能力を持たざるを得ない組織だ。(中略)そのような組織に、経営陣が直接日頃の努力を労うことや、献身を感謝する言葉をかけるということでセンターのメンバーは、大いにモチベーションを上げることにつながる。<経営陣の理解が必須>」「執務環境のベースとなるのが『職場の明るさ』だ。皆と達成感を共有して喜びあい、わくわくするような楽しい雰囲気が職場を活性化させる源となる。そこにはリーダーのスマイルが不可欠だ。」などなど。
まるでこの本に書いてあることを自分が読んでいたのかなと思うくらい、共感するところが多いです。交流分析の知恵を生かしながら、個別業界のことも勉強してコンサルティングのレベルを高めていかなければと思います。