これ、面白かった。
古河電気工業㈱人事総務部の関尚弘さんという方と、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ㈱というコンサルティング会社のディレクターである白川克さんという方の共著『プロジェクトファシリテーション』(日本経済新聞社)である。
古河電工では、工場ごとに人事業務をやっていたという効率性の悪さがあり、それらをもっと効率化できないか、という人事BPRの課題があったという。今から10年以上も前の話である。
これは同社の歴史の上に出来上がってきた仕事のやり方だったので、おいそれと変えるわけにはいかないし、簡単には変えることができない大きな壁だった。
それを社内の問題意識に端を発し、外部コンサルの力も借りつつ、根本から変革し、より良い会社にしていこうという取組の過程を、かなりつぶさにレポートしたものである。
当然、公開できないような裏話もあるだろうから、本に書かれたことがすべてではないだろうが、会社側の思いや疑念や動揺やトラブルなどが赤裸々にしたためられているし、コンサル側からもコンサル活動の流れだけでなく、その時々にどのように考え、どのように感じ、どのように助言し、どんな場面でどんな技術を使ったか、などが余すところなく書かれている(と見える)ことがとても良い。
サブタイトルにある〝クライアントとコンサルタントの幸福な物語〟とあるのは、まさしくそのとおりだと思った。
最初は多少、双方とも疑心暗鬼なところがあるが、初めの打ち合わせ(<ノーミング>というらしい)で、相当突っ込んだ話をし、なるべく腹蔵なくものを言い合えるような間柄を作るよう工夫したことで、最終的には本当のパートナーと言える関係に成長している様子がよく見える。
白川さんというコンサルは若いながらケンブリッジという海外仕込みのコンサルノウハウをしっかり場に応じて使っていて頼もしい。この辺は、ノウハウが確立されている大手コンサル会社の強みだなあと感じる。
関さんという古河電工の人も実によく勉強している。中に出てくる本は『リエンジニアリング革命』『ザ・ゴール』『V字回復の経営』など経営改革ものの名著の数々である。
私が学んだことは以下の点などである。
・コンサルティングだとかファシリテーションだとかいうが、大事なことは、企業の内部の関係者とともに、相当強い思いを持って結果が出るまで一緒にやっていくこと。
・途中の挫折もあるかも知れないが、それでも続けられるよう最大限の努力をすること
・議論のちゃぶ台返しが起きにくいようにファシリテーションの技術をちゃんと活用すること、技術は効率のためにあること。
・技術としては、ノーミング、アイスブレイク、プレップ、シナリオチャートなどなどである。
ケンブリッジのように複数人がそれぞれの役割を果たしながらファシリテーションをするというのは、個人においてはできないが、学ぶところが大変多く、共感できた良い本だった。
BPRとシステム構築を平行して考えなくてはならない、ある程度の規模の企業関係者には是非一読を薦めたい本である。
「読んだ本」カテゴリーアーカイブ
ジェームス・スキナー『100%』
ジェームス・スキナー氏の『100%』を読んだ。
成功本はもういいと思うくらいに読んでいるが、やたら売れていると評判なので、読んでみた。
<100%>という指標があったとしたら自分は何%程度充足しているか。
「明日死ぬとしたらこれからの24時間どう過ごすか」という命題はよく出題されるものだ。
人生の目的は生きることである。
私も20代の頃、この解答を得た。
ではそれから100%の人生を生きてきただろうか。
よく頑張った、恥も外聞もなく、懸命にやってきた、とは思う。
しかしあくまで色々な制約、色々な「当たり前」の範囲での目いっぱいであった。
それでもその範囲での100%はやってきたつもりである。
だが、まだまだやるべきことがあるのでは?とこの本は問いかけている。
愛することを100%やっているか。
遊ぶことを100%やっているか。
運動するときに100%やっているか。
仕事するときに100%やっているか。
勉強するときに100%やっているか。
冒険するときに100%やっているか。
会社では誰かが自分の状態を管理してくれており、引き出してくれるのを待っている。
要求され許可されるのを待っている。
人生は準備ではなく本番だ。
にもかかわらず私たちはセーブしている。
意味がわからない、とジェームス・スキナー氏は言う。
それではまるで子どものようだ、とも。
そろそろこの本から得た教訓をいくつか記載してまとめにしたい。(他にもあるが本の丸写しになってはいけないのでいくつかだけの抜粋とする)
・結果ではなく、原因に対して決意をする。(目標数値必達、ではなく、そのやり方を実行することを決意する)
・それはある意味、開き直りである。
・想い→選択→行動→結果・・・これが唯一無二の成功法則である。
・惰性=習慣=安住が自分の人生の選択を妨げている。これを変えればそれで良い。
・何よりも成功の原因となるのは100%の行動である。
・100%はすべての夢を叶えてくれる。
・人生は選択であるが、幸福になりたいと思えば、愛と冒険を選択しなければならない。
・大切な価値観は「愛」「信じること」「冒険」(スキナー氏)
桐野夏生さんの『ポリティコン』(上・下)
あるラジオ番組で桐野夏生さんのインタビューをやっていたのを聴いた。
この人の小説を読みたいなあという衝動に駆られた。
『東京島』は以前書店で立ち読みしたのだけれど、買うとなると何を読んでいいかわからず、とりあえず図書館に行き、『ポリティコン』という大きな本(上下2巻)を借りてきた。
中上健治さんの路地物語の要素と井上ひさしさんの吉里吉里人のローカリズムが合わさったような重っちい本だった。
この人の小説は(読む前の、色々な本のタイトルから来るイメージで)なんとなく最後が暗く終わってしまって、絶望感が残る後味の悪い読み物なのではなかろうか、という恐れを抱きながらチャレンジしたのだが、この本は、絶望の果てに一縷の望みがあり、前を向いて歩けそうな感じがしてほっとした。
萱野稔人さんほかの『金融緩和の罠』
この春からの金融緩和についての影響を学習中。
積極的に緩和せよ、という主張を推し進めた浜田宏一さんの著書は前に読んだので、次は批判的な説をと思い、集英社新書の『金融緩和の罠』。
誤解を恐れずに印象に残ったことを言えば、中央銀行が行う金融緩和は、政府の返済能力≒徴税能力を担保としてこれまでは行われてきており、今回の異次元緩和は裏づけのない金融緩和であり、危ないよ、という感じのことが書いてあった。
残念ながら、市場をびっくりさせる、市場と対話する、という現総裁のやり方の是非については論じてなかった。そこが少し残念。
次回はもう一度推進派の本も読んでみようと思う。
川原慎也さんの『これだけ!PDCA』
中小企業診断士として自身のバージョンアップを怠ってはならない。今回は経営改善に関する本を一つ。
川原慎也さんという方の書かれた『これだけ!PDCA』。
PDCAを阻害している要因とは何ぞや。
この本では、計画を作る時期に問題ありとの指摘。
・決算1~2ヶ月前のバタバタしている時期に作るから、おざなりになり、みんなの同意や認識共有も図れないので、心の入った計画(P)になりにくい。
・最近の(私もとみに思うことだが)成果主義が邪魔をしている。つまり自分の手柄にならない、例えば人の育成とか、長期的な種蒔とかを避け、目標は手の届く低いものにしてしまう。
ちなみに私も以前人様のマネジメントに携わった時期があったが、明らかに手の届くレベルの目標を設定しクリアした人にはそこそこの評価しかしなかったし、他のメンバーの支援をしみんなから感謝をされたり成長を促すことに寄与した人(自分の仕事もこなしつつ、ではあるが)には相当高い評価をし、そのとおりの二次評価ももらってきた。それによってチームの団結力が強くなり、お互いをフォローしあって全体として強い組織作りができたという自負がある。
その他
・目的と目標と計画の関係
・5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を徹底している会社は強い
・計画は忙しい日常業務があることを前提に作らなくては破綻する
・解決策立案に当たってはプロセスを細かく(実行可能なレベルまで)落とし込んで立てるといい
などなど、わかりやすく、示唆に富んだ本だった。
中島孝志さんの『キラーリーディング』
たぶん今年最後の読書。
中島孝志さんという人の『キラーリーディング』
速読法の本は何冊か読んでいる。
私の場合、その技術をちゃんと修得して、たったかたったかと読んでいけばいいはずなのだが、読み方がなかなか速くならないのが難点。
とは言え、何か目新しいやり方がないかとまたしても速読法の本を読んだ次第
言えるのは、自分に必要な情報をいかに早く得られるか、が速読法、短い時間で大量の本をモノにする技術だということ。
この本に書かれていたエッセンスは、
①まず「前書き」を読む。
②次に目次を読んで全体の構成を掴む。
③掴んだ全体像の中で自分が必要な情報を得られそうな箇所(章)を類推する。
④できれば、著者が肩の力を抜いて書いたであろう「あとがき」も読んでおく。
⑤あたりをつけた章に行ったら、その中でキラーフレーズを見つける。
⑥キラーフレーズの中のキラーワードを見つける。
(注)その際、キラーフレーズやキラーワードは、別に著者の最も言いたいことやこの本の中の核心ではなくとも良い。自分にとって重要な情報であればそれがキラーフレーズでありキラーワードなのである。
⑦本を読むときは付箋を活用する。ざーっと読み進める途中に気になる箇所があったら付箋をどんどん貼っていく。
⑧後で付箋の箇所だけを読み返し、重要だと思ったところだけパソコンに打つ。
⑨情報整理は京大カード(B6のものが最もポピュラー)を活用し、読書メモを作る。
⑩デジカメも使う。メモのパソコン打ちも活用する。ひたすらどんどんパソコンにデータを取り込む。キーワードを自分なりにつけて放り込んでおく。(後でキーワードで検索すれば、整理して保管しなくても取り出すことができるのがパソコン管理の強み)
⑪音声入力も活用する。この著者の場合はICレコーダを活用している。こちらもキーワードを音声ファイルに付与した上でパソコンに放り込んでいるらしい。
といったようなことか。
①から⑥は大概の速読本に共通したやり方仕方である。
⑦以降は、この著者のオリジナルなノウハウも含まれている。
ということで、そろそろ速読法の本は卒業して、来年はほんとにちゃんと本を読んで情報をどんどん取り込み、実学として活用していかねばならない。
小出宗昭氏の『カリスマ支援家「小出宗昭」が教える100戦100勝の事業サポート術』
数年前に友人から紹介された本、小出宗昭氏の『カリスマ支援家「小出宗昭」が教える100戦100勝の事業サポート術』をようやく読んだ。
この人は静岡銀行の出身で経営支援の仕事に携わった末に公的支援機関に出向し、4年ほど前に独立されて企業支援の仕事をしつつ、最近は政府の中小企業施策を担うナントカ委員とかいうのも務めておられる。
そういう人なので、公的機関におけるコンサル手法の本かと思っていた。そういう要素もあるにはあるが、この本の底流にあるのはご自分の後輩たちである、現役の金融機関職員に対する熱いメッセージだと感じた。
つまり金融機関が地域の経済を時間をかけてでも活性化していくためには(それが長期的な経営基盤の強化にもつながるのだが)、これまでのような「融資可能可否」を決算書から判断するという単眼的なものの見方ではなく、経営者や企業としっかり向き合ってその光るポイントを見出し、お金以外も含めた支援ができるようになって欲しい、というメッセージである。そのことを繰り返し巻き返し、本の中で何度も訴えている。とはいえ現実の金融機関は営利企業であり、長期的な取組みだけやるわけにもいかず、企業支援というものは現実的にはやはり公的機関に恃むところ大であろう。
コンサルの進め方や心構え、日ごろの勉強方法や経営者との接し方など、学ぶべき点も多い良書であった。
冲方丁さんの『天地明察』
小説というのは、読み始めとか途中の展開や転換、クライマックス辺りまではいいんだが、エンディング近くになると、離れがたい気持ちに、往々にしてなる。
この『天地明察』がまさにそういう小説であった。
この小説は大阪の友人から薦められて読んだものだが、初めの頃は出てくる言葉が難解この上なく、さてどうなることか、と心配もしたが、ストーリーが面白く、ついつい引き込まれ上巻は一気呵成に読んだ感じだった。
渋川春海の純朴さとひたむきな向学心。作成した問題の誤りに気づいたときの潔さ、それを暗にほのめかした関孝和の深い配慮。素晴らしい江戸人の誇りと気高さに涙が出た。
さらに北極星を見ながら日本各地の測量をしていく際の、先輩学者たちの純粋さ。想定が当たったときの子どものようなはしゃぎよう。
まるで映像を見ているような、冲方丁という作家の筆さばき。
映画化されたがゆえに余計にかも知れないが、岡田准一さんがこんなふうにボケてるんだろうな、とか、宮崎あおいさん演じる「えん」のにらみ顔など、容易に頭に浮かぶので、小説を読んでいるというより、映画を観ているような気にさせてくれる小説だ。
幕末維新の折、日本が砲艦に脅かされつつも、結局は欧米列強に植民地化されずに済んだのは、この時期(江戸時代初期)に、既に高度な算術の知識・技術を持っていたこと、に象徴されるように、日本の学術・技能のレベルが極めて高かったことが大きいのではなかろうか。
私たちにはそういう学術能力が伝承されているはず。
もちろんそれらは、他人の知識の受け売りのみでなく、自分たちで工夫したり新しいものを生み出すオリジナリティも大いにあるはずである。
苦難の続く日本の政治経済情勢ではあるが、こういう爽やかな生き様をしなきゃ、と心から敬意を表しつつ、この素晴らしい人物たちが織り成す日本のDNAを背負って、みんな頑張りまっしょい。
和田秀樹さんの『テレビの大罪』
和田秀樹さんの『テレビの大罪』(新潮新書)を読んだ。
<<(元不良がテレビに出て)「子どもがグレても、ほっといたほうがいいっすよ」などという言葉を信用してしまった親は、一体どうなるでしょうか。それで子どもが人を殺してしまったり、親が家庭内暴力で殺されたりしてしまったら、テレビはどう責任を取るというのでしょうか。>>(本書より引用)
という一文がある。極端なたとえかも知れないが、テレビにはそれだけの影響力と責任があるはずだ。この本を書いて、著者の和田秀樹さんは、その後マスコミからオミットされている由。
しかし書いてあることは正しい。
テレビは「二分割思考(白か黒しかない、と断定する考え方)」を助長し、正常な判断ができる大人が持っている「認知的複雑性(中間にグレーがあり、濃いグレーから薄いグレーまで様々あるという、可能性の多様性を理解する力)」を弱めている、と主張される。
最近のテレビには見るに耐えない下劣な番組が多すぎて、とても見られたもんじゃない、という話をよく聞く。その感覚は健全なことだと思う。もちろん、全てのテレビ番組がそうだとは言わないが、お笑い・社会・政治・経済・健康ものに対する注意が必要なこと言うに及ばず、情報番組や歴史検証ものなど、比較的、偏見で作られる可能性が低いものでも、盲信してはいけないぞ、という感性は必要だと思う。
若い人たちにも一読を勧めたい本だ。
高田崇史さんの『カンナ 飛鳥の光臨』
高田崇史さんの『カンナ 飛鳥の光臨』。
蘇我馬子と蝦夷と入鹿の三人分の仕事を、聖徳太子という仮設(仮に設定)の人物の業績にしたのでは?という仮説(仮の説)を下敷きにした推理小説である。
既に聖徳太子=推古天皇=蘇我馬子という説は人口に膾炙されており、特段奇矯な説ではないものの、そこに至る推理の展開の仕方や、法隆寺金堂の釈迦三尊像が蘇我氏三代(三人)の崇りを鎮める目的で“三体”なのでは?という考え方などは面白い着眼点だと思った。
一話完結ではなく、犯人やその目的や背景などいろいろなものが次回以降に引き継がれてしまっているので、ありゃりゃ、また続きを読まなきゃいけないのか、と面食らったが、面白い小説であった。