「価値観」の力

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ある仕事で、企業の経営者の相談相手として伴走的に関わるということをしています。「経営力再構築の支援」というような言い方がなされている業務です。「経営力再構築」とはどういう状態からどういう状態になることを指すのか、あまり明確な定義があるわけではないようですが、経営者がこれまで気づかなかった会社内の問題やなるべく考えないようにしていた問題などに、経営者が目を向け主体的に解決に取り組むことを目指しているようです。

その仕事を始めて約一年が経過しますが、いくつかの企業と取り組んでいる中で、「価値観教育」と「組織力強化」がとても大事であり、かつこれらの企業に共通した課題だなと最近感じています。そのうち「組織力強化」は組織の中間にいる人たちのマネジメント行動(もちろん「考え方」が前提として必要です)ができるようになることです。「価値観教育」については、社員が10名ぐらいの間は、大抵の場合は社長と社員がいつも同じ釜の飯を食べるといった、物理的にも心理的にも近い間柄のため、ことあらためて価値観を合わせるようなことは必要ないのですが、規模が大きくなって行ったり、中途入社の人が増えて行ったりすると、徐々に社長の思いや大事にしていることや行動基準のようなものが伝わりにくくなっていきます。そのうち組織の崩壊、なんてことにもなりかねません。

成長を志向し、組織力を強化していこうという企業にとっては、価値観をどうしていくかということが大きな課題になるようです。そんなことを感じながら、ハーバードビジネスレビューの2023年4月号「価値観」特集を読みました。

価値観という言葉の定義や、パーパス、企業理念、ミッション、ビジョン、バリュー、経営方針、行動指針など、企業の方針的なことを表す言葉は沢山あり、何が上位概念で何が下位概念かといったことも、言う人によって一様ではありません。この本では、コーポレートバリューという考え方を提唱しています。コーポレートバリューは、①企業が最終的な到達を目指す地点と、②企業および企業の構成員の心構え、の2つの要素で構成される、とのことです。①をパーパス或いはミッションと呼び、②をバリューと呼んでいます。パーパスは社会課題などを背景として自社が社会で果たすべき役割や社会に提供したい価値であり、企業が存続する限り追い求める高邁な理想、内発的に形成されるもの(但し、経営者の独りよがりの「やりたいこと」とは少し違う)であり、多様な人材が一つの組織に集まって協働する理由であり、バリューは、目指す地点(①)にどのように向かうかを規定するものであり、「心構え」だとあります。

目指す方向がずれている人、企業が望むような行動様式が取れない人、をどうするか、といった問題も発生しています。価値観の合わない人、というのが従来の言い方になるかも知れません。ここでは価値観=目標=ゴール(=パーパスやミッション+バリュー)という言い方なので、「目指す方向」というのがが近いように思いますが。そこを目指そうとせず、そのための「心構え」(お客様からの様々な刺激に対してどう反応・行動するかといった従業員に共通的に心得ておいてもらいたい行動の基準みたいなもの)が他の人と異なる場合は、どうするのか。価値観の合わない人は出て行ってもらう、というような簡単なわけにはいきにくい時代になっています。人手不足の問題もありますが、多様性がイノベーションを生む土壌であるということを考えると、そのような人をどうやって包摂していくのか、という難しい課題にも対応していくことがこれからは必要かも知れません。見ないふりをするのではなく、かといって退場してもらうのでもなく、しかし社内での他の従業員との軋轢を放置せず、いかに包摂して自社のパワーを高めていくか。難儀ですがこれからの企業にとって取り組む必要のある課題ではないかなと感じています。

さて、この冊子には、コーポレートバリューを組織内にうまく浸透させることがとても大事であるということや、そのための方法論なども書いてあり、ここでは省略しますが、実務の中でも参考にしていきたいと思っています。

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2020年に実現できたこと(企業での交流分析研修)

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今年の春に先輩の中小企業診断士からコミュニケーションに関する研修を希望している企業がある、と打診がありました。
 以前から企業単位で交流分析の知恵をお伝えしたいと思っており、是非取り組ませていただきたいという風に逆提案しました。
 私に与えられた日程は4日間(各半日)でした。
 いわゆる2級講座を実施するには時間が短く、かつ初級編を経由せずにいきなり会社まるごと2級講座を学んでいただくのは適切ではないと考え、次のようなプログラムを組みました。

 1回目:社内コミュニケーションの現状を確認する(講師である私の現状把握という目的もあり、また何よりも参加者である社員の皆さんが日ごろ感じている息苦しさや伝わらなさを表に出して問題の認識を共有できるようにするという意味あいがあります)

 2回目:交流分析初級講座その①。1回目であぶりだした職場のコミュニケーション上の問題を念頭に置きながら、相手を変えなければと力む前に、まず自分の心の状態を知ろうということで、交流分析の7つのジャンルのうち「自我状態」を中心に実施。

 3回目:交流分析初級講座その②。この回が全体のヤマ場です。交流分析という心理学の中で私が最も中心的な知恵だと感じている「ストローク」を中心に実施。

 4回目:交流分析初級講座その③。「人生態度」や「心理ゲーム」などについてワークをしていただきながら自分を深く知るというプロセスを踏んでいただくことで、他者とのコミュニケーションのより良いやり方をそれぞれに考えていただく。

主要教材

 経営者の意向により、なるべく全社員に共通認識を持ってもらいたいということで、外国人技能実習生の方々も参加されました。これは驚きでしたが、参加者の1/3以上が外国人技能実習生だったことで、インストラクションプランよりも、この方々に果たして伝わるだろうかという不安が大きく、事務局の方にお願いして、日本人だけ、外国人実習生だけでグループになることがないように、また、私の説明でわかりにくい日本語があった場合は、外国人の方々に解説していただくようお願いしました。
 1回目は模造紙と付箋紙を使った全員参加型のグループワークでした。お客様情報のためその模様を掲載することはできませんが、後から役員さんからこんなに活発に意見が出てくるとは思っていなかったと驚きの声を伺いました。
 当然コロナ下での研修でしたので、全員マスク着用、ソーシャルディスタンスをある程度保ってということでの実施となりました。
 1回目のグループワークは通常行うような大部屋で講師が各グループの間を歩き回るというようにはできず、複数の部屋に分散して取り組んでいただいたので、オペレーション的にも大変ではありましたが、なんとかファシリテーターの役を務めることができました。

 縷々お伝えしてきて、最終日には次のようなまとめをしました。
 ①自分らしく気持ち良く過ごせる時間をより長くしていきましょう。
 ②会社で一緒に学んだ意味は、より心地よい有意義で価値あるコミュニケーションになるよう、コミュニケーションの質を向上させることです。
 ③職場でも家庭でも、意図的に、肯定的ストロークを出すように心がけてみて下さい。

 大きく感謝しているのは、私の依頼を受け止めていただき、幹部の皆さんもしっかり参加していただいたこと、幹部の中でも中心的な方が心理学や職場のコミュニケーションの重要性を感じておられ、交流分析の研修という提案を的確に受け止めて下さったことです。おかげで研修の準備から当日の運営、各日の研修終了時には毎回こういう事象があってどうすべきかといったご相談にもお越しいただき、有意義な取り組みになったと感じています。
 時間の関係で、最終回に参加者の方々から1回目にあぶりだしたコミュニケーション上の問題に対して、それぞれの立場でどのように向かっていくかといったことをお尋ねすることができなかったのが反省点ではありますが、それぞれにおいて学びを深めていただき、またお目にかかれる機会があれば、ともに考えさせていただきたいと思っています。

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久しぶりのチーム・コンサル

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過日、ある先輩診断士から声をかけていただきました。長い付き合いの、ある中小企業の経営者から「後継者のことで、複数の候補者がいるが、誰にすべきか悩んでいる」という相談を受けた。ついては、それら複数の候補者から絞り込むための知恵を一緒に考え、提案したい、とのことでした。先輩は私ともう一人の診断士に声をかけられ、チーム・コンサルがスタートしました。

初回は社長へのヒアリングです。進め方については腹案をリーダーに示してはいたものの、実際に経営者の思いを直接伺うことが大事だとの判断で、進め方の案を事前に出すことはしませんでした。ヒアリングの結果、複雑な事情も教えていただき、その辺りも考慮しつつ、進めることが必要であるとわかりました。
とは言え、誰を後継者にするか決めるのは現・社長である、ということはチーム一同共有認識として、以下のように進めました。

まずは後継候補者へのインタビューです。この時の留意事項は、「あなた方は後継候補者です。これから選抜面接をします。」といったようなことは言わないことです。もちろんケースバイケースで、そのように伝えてインタビューをした方がいい場合もあるでしょうが、今回はそれについては触れずに、皆さん幹部であり今後会社がさらに良くなっていくために現在の問題点や課題についてお聞かせいただき、後日幹部でその解決策等の話し合いをする、という説明にしました。

インタビューの結果を整理し、次に、後継候補者である幹部たちに同席してもらい、グループディスカッションを行いました。インタビューで出された問題点や課題については、あらかじめコンサルチームでその背景にあると想定される一般的な原因について仮説を立て、マップにしておきました。マップはあくまで仮説ですので、「参考になさっても結構です」という言い方でマップを見ていただきながら、多数出された問題点や課題の中から、幹部の皆さんに緊急度と重要度の高いものを選んでいただき、それらについて付箋紙を使って原因の深掘りをしてもらい、さらに付箋紙を使って対策案を検討していただきました。

その間、私はファシリテーションの真似事のようなことをして進行のお手伝いをし、もう一人の診断士は観察役(及び記録役)を担いました。誰が次の経営者に相応しいか、など、一回や二回の面談やミーティング観察で赤の他人が判断できるものではありませんが、少なくとも気心の知れた間柄で交わすディスカッションの様子を見ていれば、誰がどんな時にどんな言動をするかの普段の癖(やその背景にある考えの深さ・浅さなど)が知らずに表れてきます。それを観察し、記録し、経営者に提示することで、経営者にとってもっとも望ましいと思われる言動をしている人が誰なのか、についておのずと経営者が判断できる材料を提供することができるのではなかろうか、と考え、上記のような進め方をしました。虚心坦懐の観察がとても重要です。

後継者にはどなたがなってもおかしくはないのでしょうが、誰かに決めなくてはならない。いずれ経営者にも引き時がありますので、後継者をしっかり決め、内外にそのことを示し、自身は後見役として支援&指南を行う。そうした承継ができれば、事業はしっかり次世代につないでいくことができるのではないかと感じます。しかしもちろん問題はこの先も山積しています。誰かに決まったとして、他の幹部はどう出るか。場合によっては会社を後にする人が出てくるかも知れず、しかしそれが損失であると経営者が判断するならばしっかり引き止めねばならず、そのためには待遇をどうするか、どういう期待役割をその人に伝えるか、なぜ他の人なのかをどう伝えるか、など、やらなくてはならないことはまだまだ沢山あります。

色々と勉強にもなった久ぶりのチーム・コンサルでした。

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コンタクトセンターのマネジメントと交流分析

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経営コンサルタントの仕事をしている中で、時々「交流分析」(米国のエリック・バーンが創始した心理学)の知識を活用する場面があります。

今回は、ある企業のコンタクトセンターにおけるマネジメント力向上のお手伝いでの事例です。そのコンタクトセンターには、業績のさらなる向上、従業員が明るく元気に働けるような環境改善、などの課題がありました。

組織の長である店長さんたちと個別に話をしていたところ、それぞれ店長さんも係長さんたちも、毎日忙しく業績向上に向けて数字の管理やオペレータさんたちの後処理やクレーム対応などで働きまわっていることがわかりました。しかしなんとなく職場のムードが沈滞していたり、業績がなかなか上向かない、やる気のなさそうな人もいる、ということでした。

よくよく聞いてみると、店長さんがみんなに「おはよう」といった挨拶をしていない、店長(男性)によっては女性が多い職場での勤務経験があまりなく、どう対応して良いのかわからない。下手に声をかけるとセクハラだと言われるのではないかと恐れ、結果として誰にも挨拶の声すらかけられなくなってしまっている、そんな状況が見えてきました。

これでは仕事をする以前だ、と感じました。各店長さんの個別の課題はそれぞれまちまちですが、コミュニケーションレスの問題はかなり多くの職場に共通していそうだということが見えてきました。朝起きて挨拶しない家族はない(ちょっと極論ですが)、ということを引き合いにお示ししました。

その上で、まず、係長さんたちに所掌のオペレーターに対して朝必ず自分から声をかけるように伝えて下さい、とお願いしました。そして、マネージャー自身が身をもってそれを示すことが大事なので、店長さんは少なくとも係長さんには必ず声をかけ、できれば何か褒めてあげて欲しい、なんでもいいから、と伝えました。その上で「交流分析」のストロークの話をしました。

・人はストロークを得るために生きている。ストロークを得ることがなければ生きていられない。ストロークには肯定的なものと否定的なものがある。それらを決めるのはストロークの発信者ではなく受け手である。叱りつけるのもストロークだが、できれば人は自分にとって心地よいストロークを得たいと思っている。否定的に感じるストロークも条件をつけて「〇〇だから良くない」という風に伝えれば、教育的な効果があるので、否定=だめというものではない。しかし、最もやっていけないのは「無視」である。

皆さんの職場の方々の多くは、この「無視」の状態に置かれていたのではないでしょうか。それでは仕事にしっかり取り組もう、この会社で頑張ろうという意欲など生まれません。従って、可能な限り、オペレーターも含め全員に挨拶ぐらいはやって下さい、というお願いをしました。

店長さんによっては「受注したらその瞬間に褒めます」と宣言をしてご自身のマネジメントのあり方の変革を始めた方もおられます。有言実行。その結果、自分から「売りましたよ」と店長席まで報告に来るオペレーターさんも登場したそうです。これまでオペレーターが店長席に来ることなどなかったのに、と仰っていました。ストロークの効果絶大です。

またある店長さんはオペレーター全員と面談をしたそうです。これまではオペレーターと面談などしたことがなかったようです。こちらから直接働きかけて会話をするということ自体、はばかりがあったようです。

その結果、職場の様々な問題点や自身のマネジメントに関する要望も沢山聞けたようです。中には個人的な悩みの相談も・・・。

次の課題はそこです。職場のトップとの直接のコミュニケーションができるという安心感、話を聞いてもらえるんだという信頼感が醸成されると、次に出てくる課題は「交流分析」でいうところの「心理ゲーム」です。もちろん、このコンサルティングは「交流分析」の授業ではないのて、心理ゲームや時間の構造化という専門的な言葉を多用するわけにはいきませんので、「コミュニケーションの段階が深まっていくと、人によっては無意識に相手を自分の心の闇に引きずり込もうとする人が出てきます」という警告を発しています。既にそういう場面に出くわした店長さんもあったようです。今後さらにそういう人が増える可能性があります。しかしそれは悪いことではなく、それだけあなたが信頼された証しです。ではありますが、あくまで会社でありビジネスの世界なので、ある程度は話を聞いても途中で仕事そのものの話に戻すことが必要です、と助言しています。さすがに「交差交流をしてみて下さい」とは言えません。

そんな風に経営コンサルティングにおいても「交流分析」の知識が役に立つ場面が色々あります。

ところで、コンタクトセンターの経営に関して何か参考になるものがないかと探してみたら、良さそうな参考図書があり2冊購入し、ひもときながら仕事をしています。たまたま2冊とも同じ方の著書でした。

『コールセンターの経営学』『戦略的コールセンターのすすめ』(谷口修氏著)

随所にいいことが書いてあります。「オペレータは、業務時間中、電話や画面越しに顧客と向き合い続けている。(中略)休憩時間を除いて、社内のメンバーとコミュニケーションを取る時間はない。一日の業務を振り返って、「対話をした相手は顧客だけ」という状態では、企業への帰属意識もチームワークも生まれない。(中略)家庭や友人関係についても話し合うことのできる仲間の存在が長時間の仕事に耐える拠り所になるはずだ。(中略)交換日記を行っているセンターも数多い。」「センターは、業務自体が単純ではなく、複雑化、高度化していく顧客対応に追随する専門能力を持たざるを得ない組織だ。(中略)そのような組織に、経営陣が直接日頃の努力を労うことや、献身を感謝する言葉をかけるということでセンターのメンバーは、大いにモチベーションを上げることにつながる。<経営陣の理解が必須>」「執務環境のベースとなるのが『職場の明るさ』だ。皆と達成感を共有して喜びあい、わくわくするような楽しい雰囲気が職場を活性化させる源となる。そこにはリーダーのスマイルが不可欠だ。」などなど。

まるでこの本に書いてあることを自分が読んでいたのかなと思うくらい、共感するところが多いです。交流分析の知恵を生かしながら、個別業界のことも勉強してコンサルティングのレベルを高めていかなければと思います。

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アナログコミュニケーション実践編

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倉益幸弘さん率いる「株式会社インパクト・コンサルティング」の支援現場に同席させていただいてから4年半になります。機会を見ては付箋紙を使ったアナログコミュニケーションの真似事をさせていただくようにしています。

先日は、ある組織のある部門で「新しい事業の提案があったが、具体的にいつ誰が何をするのかがまったく考えられておらず、このままでは始まらない」という相談をいただき、すかさず「付箋紙会議」の提案をしました。

現場の責任者・実務者など最低3人、できれば5~6人くらい集めて下さい、とお願いし、大きめの付箋紙とマジックと模造紙の用意をしていただきました。あいにく模造紙は伝わっておらず、使っていないカレンダーの裏面を張り合わせて模造紙もどきを作って行いました。

今回のテーマのポイントは、提案されている新規事業を実施するために、具体的に何をしなければならないかが、関係者の間で共通の認識になり、それを誰がいつやるか、についても関係者が共有することです。実施すべきことと実施すべき人が決まれば、あとはやるだけです。

先に発想するためのガイドを提案しました。「許認可」「ハードの整備」「人のスキルや雰囲気などソフトの準備」「集客」などです。これにこだわる必要はなく、これ以外のアイディアが出てきてもどんどん出していただきます。ガイドはあくまで発想のための呼び水のようなもので、「人」「モノ」「金」「情報」といった枠の提示でもなんでも良いと思います。

参加されたメンバーにそれぞれ何をしなければならないかを考えてもらい、考えたことからどんどん付箋紙1枚に1件記入してもらいます。この「1枚に1件」が大事で、極力キーワードだけを書いてもらうようにします。

書いていただいた付箋紙を模造紙もどき(もちろん白い面)に貼っていきます。今回は時間軸を最初から横軸に取るようにしました。書いていただいたものをどんどんいただきます。ある程度貼ってから、少しずつ整理していきます。一枚一枚について、意味や内容を確認します。同じ内容のものがあれば隣に貼ります。一枚も「これは無関係だ」と言ってはずしたりすることはありません。こうすることによって、皆さん自分の出した考えが大切に扱われているという誇りが芽生えます。とまあそれほどおことはないにしても、少なくとも悲しい気持ち・失望・挫折感を味わうことはありません。一枚一枚を丁寧に扱うことも大事です。どうしても今回のテーマと関係なく欄外にずらす場合でも、書いた人の同意をもって確認してからずらすことが望ましいです。

付箋紙会議のやり方(一部)

書いてある付箋紙が具体的ではない場合、「これを具体的にするにはどうしたらいいですか?」とか「これの前にすべきことはありますか?」などと聞いて、皆さんから声を出してもらいます。出てきた意見をまた誰かに付箋紙に書いてもらい、それを発問のきっかけになった付箋紙の下や左側や右側など、時間軸を意識して関連付けて貼ります。

メンバーが同じ方向を見ながら一緒に文字を見て、ずれがあれば合わせるための付箋紙を新たに追加し、それをまたみんなで見て、ということを繰り返していると、ファシリテーターが発言しなくても、メンバーの方から異論や疑問や建設的な新たな提案などが出てきます。・・・といったような議論の活性化と認識の共有が短い時間で形成できるのがアナログコミュニケーション、付箋紙会議のメリットではないかと思っています。

仕事の量やリミットが見えてくると、従来の担当決めだけに縛られない、自由な発想が出てきます。仕事の担当決めに従ってものごとを考えていくと、特定の人に負担がかかりすぎたり、組織の硬直化を招いてしまう恐れがありますが、やるべきことを洗い出してからやる人を考えると、ものごとの優先度にあった人のアサインがやりやすくなります。もし担当としてみんなで決めた人にその仕事をするためのスキルが足りない、となった場合はみんなでどうサポートするか、という議論もできます。

こんな感じで進めてみた結果、参加したリーダークラスの方からは、「一人で事前に考え、ある程度完成に近いものができていたと思っていたが、現場の人とこういう風に話し合うと、想像もしていなかった問題点が明らかになったし、吐き出すべきものを全部吐き出し、取組事項と役割分担もできてスッキリした」というコメントをいただきました。

このグループのミーティングの進め方を、近く、組織全体に紹介する予定です。紹介するのはこのグループのメンバーです。各グループで同様のミーティングを実施してもらい、組織の再活性化に活用していただくことができればと思っています。

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歴史の見方が変わっていくことについて

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先日ラジオを聴いていたら、私たちが小中学校で教わった江戸時代は「士農工商」という縦型の身分社会だったというのは、後の世に捏造されたものだったという話が出ていました。

そもそも「士農工商」というのは中国から来た概念であり、しかも「全ての職業の人たち」というような意味合いだということでした。「農」が「工」や「商」よりも上位に位置付けられていたということはなく、それらが4階層のピラミッド構造になっていたという事実もないという話でした。

教員を務めている親族に聞いたところ、確かにそのとおりで、階層は、武士の下に「町人」と「百姓」が並立していた、というふうに今の教科書はなっているそうです。この辺のことはネットにも既に沢山書いてありますね。

しかも百姓というのは農民だけのことを指すのではなく、色んな職業の総称だということです。当時差別されていた人たちはそのさらに下、ではなく、「外の人」という位置づけだったという話もありました。

網野善彦さんの歴史書にはヒーローが出てきません。多くの歴史書は人物中心で描かれており、その人物がどのような立派なことをなしたか、それによって日本という社会にどういう影響を与えたか、という観点で書かれており、読めば納得し感心し記憶に刻み込まれていきますし、そのような歴史書は読みやすいです(私の場合、ですが)。そんなわけで、ついつい敬遠しがちでした。

しかし今回上のような話を聞いて、そういえばそんなことを研究して世の中の日本の歴史観を見直させてくれたのが網野善彦さんの色々な著述ではなかったかと思い起こし、『日本の歴史をよみなおす』を紐解いてみました。

網野善彦氏の著『日本の歴史をよみなおす(全)』(ちくま学芸文庫)

書かれていたのは、縄文や弥生の時代には恐らく差別はなかったということ、13世紀頃までは文献を見る限り差別はなかったということ、13世紀後半頃から「人間と自然のかかわり方が大きく変化してきたこと」「自然がより明らかに人びとの目に見えてきたが故に、ケガレに対する畏れが消えていった」「それにともなって、ケガレを清める仕事に携わる人びとに対する忌避、差別感、賤視の方向が表に現れてくるようになった」。しかしそれだけではなく、「日本の社会において悪とは何か、・・・いかに考えるべきかについて、かなりきびしい思想的な緊張のあった時期だった」ともあります。その前は神仏の奴婢として「聖なる方向に区別された存在」であったり、「畏れられていたケガレを清める力を持つ聖別された職能民として社会の中に位置づけられていた」、「権威をもって威張っていた」「商売もしていた」「なんらかの事情で平民の共同体からは排除されていた」が、「裁判の訴状には自分たちはこれこれの仕事をしているとても重要な職業の者だということが書かれている」など、差別とは違う属性を持っていたことが文献から読み取れる。しかし徐々に自然への畏怖心の変化とともに、区別が差別に変わっていき、さらに江戸幕府でそれを固定化した、ということのようであり、決して昔からずっとそうだったわけではない、というようなことが書かれていました。一遍上人をテーマに描いた同時代の正反対の書物『一遍聖絵』と「天狗草子」に関する記述も面白かったです。

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映画「インビクタス 負けざる者たち」に学ぶリーダーシップ

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 ご存知の方々にとっては今さらという感じでしょうが。
 2年ほど前に友人から「リーダーシップを学ぶなら映画『インビクタス 負けざる者たち』というのがお勧めですよ」と教えられ、以後ずっと気になっていました。
 先だってある団体の管理者研修の講師を仰せつかり、「リーダーシップ」についてというお題をいただきました。
 ドラッカーや倉益幸弘さんのインパクト・コンサルティングで教わった実学などを盛り込みつつ研修内容を固めていきました。
 そうする中で、講義とワークばっかりでもなあと思いつつ、この映画を観てみました。使える部分(失礼な言い方かもしれませんが)がとても多く、これは是非参加者にも観てもらおうと考え、映画の一部分だけではありますが、研修の中に織り込みました。

 私自身はこの映画から次のことを感じ取りました。

 リーダーとは次のような存在である。
 ・方向性を明示する、ぶれない
 ・その気にさせる、実力以上の力を発揮させる
 ・フォロワーに動いてもらう
 ・間違いを正す、動機づけをする(明示的、暗示的)
 ・自分の役割発揮のために他人に働きかけを行う(誰が選んだのであろうとポジションが役割を規定するのである)

 既にドラッカーが「リーダーシップはスキルであり学ぶことができるものだ」と言っています。
 学ばずにできている人もいるとは思いますが、少なくとも後天的に習得できないものではないというのがドラッカーの見方です。といういようなことをお伝えして研修を進めました。

 参加者の受け止めがどうだったかはわかりませんが、この映画、自分としては研修内容にしっかりフィットしていたのではないかなと感じています。

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失敗を学習のチャンスと捉える、ということについて

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 先日ある中小企業の取締役の方とお話をする機会がありました。
 その企業では、従来の事業の先行きに対する不安から、新しい事業に手をつけておられるのですが、なかなかうまく育つ事業にならない、と仰っていました。
 私は簡単な絵を描いて、アンゾフの成長ベクトルの4つのパターンについて説明し、そして3つの質問をしました。
 1.新事業に進出する際にお客様のどんなニーズに基づいて判断してこられましたか。
 2.それが自社のこれまで培ってきた強みを発揮できる分野かどうか、など従業員とどんなふうに話し合いましたか。
 3.日頃従業員との会話はどんなふうにしていますか、お客様のニーズなどについても話し合っていますか。
 これらに対する答えはいずれも「そういうことはしてこなかった」というものでした。
 以前従業員の声を経営に活かすべく「意見箱」を設けたことがあったそうですが、全く意見が入れられないままに廃止となったそうです。
 その取締役の方は、自分たちがいかに従業員の話を聴こうとしてこなかったか、またお客様のニーズを把握しようとしてこなかったか、お客様に一番近いところにいるはずの従業員とお客様の求めているものについての話し合いをしてこなかったか、などについて、滔々と喋りだされました。
 多くの経営者の方は、第三者である私などが質問をしても、すぐに「下手なことを喋るとコンサルにつけこまれる。」と思われるのか、たいてい「いや、うまくいってるよ」とお答えになります。視線を少しだけ横へ泳がせつつ。
 しかしこの日の取締役の方は、しっかり自分たち役員のやってこなかったことに向き合い、どう変えようかと真剣に考え始めておられました。
 そんな矢先、フェイスブックのCOOであるシェリル・サンドバーグさんの『OPTION B』という本を見ていたら、「人はまちがいについて語れる環境にあるとき、過失を報告しやすく、犯しにくくなる」という一節に当たりました。また「失敗を学習のチャンスと見なす組織文化を育むことの重要性を海兵隊での訓練で学んだ」とも書いておられました。 日本企業には、ことに大企業であっても、失敗を隠す組織があるように思えます。(小室直樹さんの言う「法律とは別に、組織内に時として法律に優先してしまう規範ができる”二重規範”が日本組織に内在する問題点だ」ということと関係があるような気がします) 上が隠すから下も隠す。隠しおおせれば上の人は傷つかず、組織の対面は保たれ、本人は人事で損をしないし、怒鳴られることもない・・・もちろんなんでもかんでも全てオープンにすることが良いわけではないかも知れませんが、隠すことが美徳になりすぎているようだと、組織から自浄能力が失われてしまう、(その原因はまたさらに深いところにあるのでしょうけれども)こんなことが最近の大企業などの不祥事の原因だとすると、チャレンジしようという気持ち、提案しようとする気持ちは抑制されてしまうように思います。(『OPTION B』にも「報告会はうまくやらないと公開処刑のようになってしまう」「個人攻撃・・・」などの記述があります)
 上述の企業では、従業員ときちんと向き合い、その声にしっかり耳を傾けようと役員一同気持ちを合わせて取り組んでいくとのことでした。
 変化が激しく競争の厳しい時代であるからこそ、従業員、お客様の声によく耳を傾け、過ちがあれば早めにみんなでそれを認識し、次はどううまくやってのけるかを考えて実行していく企業が生き残って行けるのではないでしょうか。
 過ちを改むるに憚ることなかれ(論語)・・・これを企業の文化にまで徹底することが大事だと感じました。

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独立後、NTT関連の初仕事

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先日久しぶりに大阪に行ってきました。
10年以上前NTTラーニングシステムズという会社に出向していた際お世話になった、あるコンサルタントの方からお声をかけていただいたのがきっかけでした。

仕事の内容はNTTグループ企業の営業担当者向け研修において、サブ講師(サブサブ講師かな)を務めるもので、ロールプレイイングやグループディスカッションのお手伝いをするものです。

通信業界を離れて9年以上経ちますが、NTTグループが顧客企業に提供するサービスの根本は変わっておらず、受講者の方々が話しておられる言葉が理解できたのがまず嬉しかったです。もちろん事前にサービスメニューの知識をネットで調べて仕込んでは行ったものの、10年ひと昔と言いますから、話についていけない恐れも十分にありました。言葉が理解できるかどうかはその後の会話に入り込めるかどうかという極めて大事な入口でしたので、ここで一安心。
研修の詳しい中身は書けませんが、ある営業の技法を学んで、練習するというものです。この技法は20年ほど前に私も学んだもので、その後も折に触れ活用したり紹介したりしてきたので、違和感なく参加できました。

技法と並行して受講者の方々に深く学んでいただいたことは、お客様の課題をしっかり把握するということだったように思います。
お客様の話を聞いている際に、こちらが仮説を持って尋ねたことが必ずしもお客様が問題だと捉えているわけではなく、尋ねたことにはさらっと答えられて他の話題に移ったり、お客様自ら別の話題を出されたりすることも往々にしてあります。
その場合、お客様が自ら語っていることに焦点を当て(営業担当が立てた仮説にこだわらず)、仮にそれが真の問題でなかったとしても一旦はよく話を聴き、さらに表層的な話で終わらずに深堀することで課題をより具体化させること(できれば目で見て共有するのが理想)が大事だと思います。もちろんお客様が語っていることが真に危険な問題ではなく、他により重要な危険が迫っている(と営業担当が思う)場合は、例示などをして気付いてもらうよう示唆してみることも大切です。
課題は必ずしも一つではない。むしろ複数存在していることが結構あります。それらをなるべく具体的に(ビジュアルで)双方が認識できるようにして、それが自然体で進んだ場合の影響を、数値や従業員の心理面などを考えながら、着手すべきものの優先度や重要度をお客様と擦り合わせる。・・・とここまで書いてきて、これは営業だけではなく経営相談やコンサルでも同じだなあと、今自分がさせていただいている仕事との共通点があることに気付きました。

私には、24年間お世話になったNTTの社員さんたちに、人材育成やコミュニケーションレベル向上のお手伝いをしたいという夢があります。今回の仕事はその大切な第一歩であり自分の知見が通用するかどうかの試金石でもあると考えて参加させていただきました。プログラムやメイン講師が素晴らしかったこともあり、思った以上にすんなりと入り込めたような気がします。ありがとうございました。

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工場長の役割について考える

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 ある製造業の経営計画策定のお手伝いをさせていただきました。
 過日社長がメインバンクの方に対して、策定した計画を提示され、私も同席させていただきました。
 そのやりとりの途中、社長が工場長をお呼びになられました。
 工場長は実は数年前までは1セクションの担当者だった方で、自分は一つの作業をしっかりこなすのが仕事だと思っていた、と仰いました。しかし社長から色々指導を受けていく中で、「これだけできればいい」「自分の仕事が終われば後は関係ない」という考え方は間違いで、お客様のことを考えると、みんながある程度多能工になって納期や品質に責任を持つようになるのが仕事だということに気がついた、と言っておられました。無駄な材料発注はやめ、工場内の整理整頓も随分進んだようです。(社長の意図は自分の方針がちゃんと製造現場に浸透していることを工場長の口を通じて私たちに伝えたかったものと思われます)
 納期と品質・・・ものづくりの基本と言われる「QCD」の一部です。QCD
 Q:Quality(品質)
 C:Cost(費用)
 D:Delivery(納期)
 ということで、一作業員だった方を工場長に引き上げ、実地で指導し、上のようなことを自分の口から言うレベルまでに変化したのは社長の教育の賜物だと思います。中小企業の多くにおいて、○○長という肩書の人がいても、実際のマネジメント業務は全部社長が担わなくてはならない、ということが見られます。その点、この工場長はマネジメントの一翼を担っておられるなと感じました。

 ところで、今回策定した経営計画において、今後の課題の一つに製造原価の低減ということを挙げていました。
 そこで工場長に「あなたは製造原価管理の責任者でもいらっしゃるのですか?」と尋ねましたら、キョトンとした表情をしておられ、私が社長の顔を見て返答を促すような視線を送ったところ「製造原価は私が見ている」とのフォロー(?)。「但し原価目標は工場長に伝えている」とのちょっと中途半端な返答。
 ものづくりが大好きな製造現場の有能な作業者に「原価まで責任を持ちなさい」と言ってしまうと、新しいものを生み出すワクワク感とは異質な管理責任という荷物を持ってもらうことになってしまい、大手企業では当たり前の話かもしれませんが、これはこれで悩ましい話です。
 しかし会社がドンブリ勘定から脱却し、ちゃんと各段階で利益を出していくためには、社長だけが数字に責任を持つようなやり方ではなく、持ち場持ち場で役割分担・責任分担を明確にしていくことが必要だと思います。
 ということで、会社の大きさや仕事の分担によって色々なやり方がありますし、急に大きな変更をして有能な方がやる気を失っても困ります。そこで今後の課題として、工場長の役割には本来製造原価の責任まであるのですよということを、工場長と社長にお伝えするに留めました。今後お二人がそのことも意識して事業に取り組んでいただければ、より引き締まった体質の企業になっていくことでしょう。
 期待して応援していきたいと思います。

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