6月下旬から7月までに読んだ本など

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この一か月ほど体調がすぐれなかったせいもあり、比較的早くに床に入る日々が多かったです。
そのせいかどうか、いつもよりも多めに本が読めたような気がします。

特に塩野七生の『ローマ人の物語』は長いこと停滞していたこともあり、「終わりの始まり」を最後まで読み通せました。

「終わりの始まり」は五賢帝の最後マルクス・アウレリウスから説き起こされています。
哲人皇帝として当時の人びとからも、後の史家からも称賛されているマルクス・アウレリウスにして、後継者選びには失敗した、と塩野さんは言いたいのではないだろうか、とこの上・中・下を読んで感じました。
後継者選びが組織の活力や正しさを維持していくためにいかに重要か。
最近でも『ドキュメント パナソニック人事抗争史』にも描かれているように、前任トップがその権限維持のために後継者を選定した愚がその後の組織の迷走をもたらしてしまうという事例はいくらでもあります。権力についた人は公平な目・公正な目が曇ってしまうのでしょうか。

マルクス・アウレリウスの場合は、色々な事情があり、必ずしも皇帝として適任ではないかもなと思いつつ、我が子を次期皇帝(コモドゥス)に指名してしまった。コモドゥスはアホな治世を繰り返し側近に暗殺されてしまう。その後の皇帝は軍人が元老院の指名を受けて就任するも、自分への見返りを期待して推したのにおこぼれをもらえなかった側近に暗殺されたり(ペルティナクス)、元老院が正当だと認識していたのに皇帝道をわきまえず好き勝手をやって一強となり、誰も表立って意見が言えなくなってしまい、遠征途中に死んでしまったり(セヴェルス)、その子どもたち二人は仲良くせえよと言われていたにもかかわらず「力こそ全て」とばかりに弟を斬ってしまう兄がいたり(カラカラ)、とどんどん混乱を来していく。

カエサルが折角作った、除隊した後の軍人がシビリアンとして地方自治体での活躍ができるようにした仕組みを、セヴェルスは250年ぶりに破ってしまった、と塩野さんはとても残念そうに書いておられます。その結果、「ローマ社会での軍事関係者の隔離になっていった」「これが、ローマ帝国の軍事政権化のはじまりになる」(「終わりの始まり(下)」p106~107)

そしてこういうことも書いておられます。
「権力者であるのも、意外と不自由なことなのだ。だが、この不自由を甘受するからこそ、権力を持っていない人々が権力を託す気持になれるのであった」
セヴェルス皇帝は、「登位直後を頂点にその後徐々に悪化していき」「矜持と言うのであろうか、そのような気持のもちように対する感覚が、鈍ってきた」その結果、おのが出身地に公費をつぎ込み、そこでバカンスを過ごし、国全体のことよりも身の周りのことに関心が向いていった・・・これでは国のトップではなく、権力を持った私人ではないか、という塩野さんの嘆きが聞こえてくるような気がします。
ハードカバーの原著は15年も前に書かれたものですが、歴史の教訓は語るべき人が語ることによって、時代を超えて生き続けるのだなあと感じました。

以下が6月末から7月に読んだ本です。

『「脱・値引き」営業』山口勉著 日経BP社
『多動力』堀江貴文著 幻冬舎
『小さな会社の稼ぐ技術』栢野克己著 日経BP社
『まんがでわかるサピエンス全史の読み方』葉月&山形浩生著 宝島社
『ローマ人の物語 終わりの始まり(中)』塩野七生著 新潮文庫
『神の起源(上)(下)』JTブラウン著 ソフトバンク文庫
『運命をひらく山田方谷の言葉50』野島 透&片山純一著 致知出版社
『未来につながるまちづくり』上田玲子著 彩雲出版
『サイコパス』中野信子著 文藝春秋社
『ローマ人の物語 終わりの始まり(下)』塩野七生著 新潮文庫

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プチ創業など起業の多様化

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 富山市のサンフォルテで今日から明日まで行われている、男女共同参画事業「サンフォルテフェスティバル2017」に行ってきました。
 今日は会場の一角に机を一脚借り、富山県よろず支援拠点の利用を呼びかけるなどしておりました。

 このイベントには「女性のチャレンジショップ」というものがあり、小物製作やエステや消しゴムはんこやブリザードフラワーなど、様々なショップが50店以上も出店されていました。
 ショップの店長さんは、20代から70歳ぐらいまで様々な年代層の方がおられ、また仕事は別に本業を持ちながらの方もおられれば、本格的にこの仕事に専念している方、趣味程度なんですよという方などまちまちです。
 中でひときわ目を引いたのがとっても風変わりな植木鉢。詳しくは書けませんが、それを窓際にちょこんと置くだけで部屋の中に小庭が演出できるような愛らしいものでした。素材の性質上水はけが良く、ペイントでデザインも自由自在、という品物でした。ステキなものなのですが、長持ちさせるための工夫などできるといいなと思いながらお話を聞いていました。
 また、富山県には当店一店しかないという珍しい種類のサロンも。女性限定とのことなので私は行けませんが、ご本人が体の不調を感じた時にたまたまそこへ行って良くなり、その勢いで毎週末関西の学校まで通って資格を取得し、勤めていた会社を辞めて創業した、というお話でした。
 自分に合った小石を持つことで体調などに何らかの影響があるというお店もありました。これも詳しくは書けませんが、ご家族のご病気が軽くなった(もちろんそれの影響かどうかを判断する手段はない、とご本人も仰っていましたが)ことをきっかけに資格を取って仕事の傍ら時々こういうイベントに出店してPRしているんです、というごく普通のお母さんでした。
 そんなこんなで、「創業」と一言で言っても、法人設立のような本格的なビジネスの立ち上げから、個人としての開業、プチ創業、とりあえず副業、趣味の延長など、色々な仕事の始め方・やり方があり、「何かやろう」と思った人は、国があれこれ心配するまでもなく、それぞれ自分のやりやすいようなやり方で始めておられるし、始めることができるような時代になったんだなあと感じた次第です。
 もちろん、利用できる制度があれば利用していただけるように、行政は広報をしっかりしなければならないし、受ける方もアンテナを上げて色々な所に聞きに行くことも必要でしょう。そして相互の情報交流の中でニーズに応えられるように、行政は新しい制度作りや参入のハードルを下げる取組も必要だろうなと思います。

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Fintech(フィンテック)についてそろそろ考えてみる

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 今年はフィンテック(金融とITの融合)ということが騒がれています。
 と言ってもメガバンク辺りはもう10年以上前からフィンテック(という呼称を使わないでも)に取り組んで来ておられるようです。
 また、フィンテック企業は「新興」と言われてはいますが、10年以上前に設立された企業もあるようです。クラウド型の会計ソフトとして近年目覚ましい成長をしているMoneyFowardやFreeeなどは2012年の設立ということですから、これらは文字通り新興企業群であり、まさに時代の寵児と言って良いでしょう。
 私は個人事業者ですので、確定申告をする際、なるべく経費をかけないようクラウド型の会計ソフトを利用させていただいています。
 税務知識がなくてもそういうことができるのは、知をネットに載せ、それを低料金で一般の事業者が利用できるような仕組みがあるからです。しかも驚くべきことに、このクラウドサービスでは、インターネットバキングの利用を前提として、自分が取引している銀行の決済情報を全部吸い上げて管理することもできます。
 北欧のエストニアでは、個人の金融資産・金融機関経由の資金決済などが全て税務当局に把握できる仕組みになっているため、申告という作業もいらないくらいになっており、そのため税務申告をするための税理士さんの仕事が不要になっているということです。エストニア大使館に問い合わせたところ、税理士さんたちはそもそも有能な人たちなので、伝票整理仕事ではなく、もっと高度な助言等本来のサービスに業態転換をして仕事を続けておられるということでした。

 さてここ数か月、仮想通貨のニュースが日経新聞などでも沢山報じられています。
 仮想通貨は支払手段と定義づけられ(通貨ではなく資産との位置付けらしいですが)、今年の7月からは購入の際の消費税がゼロになるとか。
 世の中どんどん変化していますので、私も遅まきながら仮想通貨の勉強に着手しまた。
 とりあえず友人たちの勧めもあり、BitFlyerという両替店でBitcoinを少々購入し、Blockchainという名の財布をネット上に保有して購入したBitcoinをその財布に入れました。さらにはこれを現金化したりリアル店舗での買い物に使えるようにWirexという決済サービスに加盟しました。Wirexのサービスを利用するには決済用のICカードを使います。・・・と、ここまで書いてきて、この理解が正しいのかどうか実はよくわかっていないことに気付きました。まだまだ勉強しなくては到底世の中の流れに追い付かないのですが、着手しなければわからない。着手小極で、とにかくやってみる、もちろんリスクを抑えられるようにセキュリティには十分気を付けて、と思っています。

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水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』『株式会社の終焉』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』

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 エコノミストの水野和夫さんの本を3冊。いや、すごい歴史認識に立脚した本だと思いました。
 実はこれらの本は、水野さんが2008年から毎年富山県利賀村というところを訪れられ、SCOT(鈴木忠志さん主宰)という劇団の演劇を観続けてきたある時に受けたインスピレーションによってお書きになったというエピソードがあります。これは驚きでした。数百年単位で訪れる歴史の大転換期かも知れないという話が富山で行われていた演劇からヒントを得られたとは。

 さて。
 私たちが所属し、当りまえのようにその中で生きている資本主義経済が今後どうなっていくのか、という問いは常に存在してきたように思います。
 もちろん容易に答えられる問題ではないし、本を数冊読んだところで解答が見つかるものではないと思います。
 3年前に上梓され、当時ベストセラーの一つになった水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』、ずっと積読状態でしたが、その後対談本なども出つつ、また昨年秋と今年になりその続編的な本が出ました。昨年出たのが『株式会社の終焉』。経営コンサルとしては、クライアントである企業組織というものが今後どういう歴史に直面し、どう振る舞っていくべきなのかを考える参考として、これは読んでおかなくてはと思い、発売即購入。しかし2冊とも、どうも難しく、さらには今後どう振る舞うべきなのかの処方箋が見つかりませんでした。
 著者の水野さんは自分ごときに答がわかるはずがない、ゆっくり考えていかなければならないのだ、と仰っています。確かに数百年にわたって世の中の根本原理的だったものが、変化してその後どうなるのかという姿なぞ、そう簡単には見えないだろうというのは無理もありません。
 そこへ3冊目『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』という本が出ました。そろそろ解答編かな、と思い、購入。3冊まとめて読みました。

 まずはそれぞれの本のインデックスを拾ってみます。

 1.『資本主義の終焉と歴史の危機』
 ・資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
 ・新興国の近代化がもたらすパラドックス
 ・日本の未来をつくる脱成長モデル
 ・西欧の終焉
 ・資本主義はいかにして終わるのか

 2.『株式会社の終焉』
 ・株高、マイナス利子率は何を意味しているのか
 ・株式会社とは何か
 ・21世紀に株式会社の未来はあるのか

 3.『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』
 ・「国民国家」では乗り越えられない「歴史の危機」
 ・例外状況の日常化と近代の逆説
 ・生き残るのは「閉じた帝国」
 ・ゼロ金利国・日独の分岐点と中国の帝国化
 ・「無限空間」の消滅がもたらす「新中世」
 ・日本の決断-近代システムとゆっくり手を切るために

 インデックスだけを見るとそれぞれ異なる印象はありますが、3冊ともほぼ同じ内容です。
 しかし私は3冊読んでようやく全貌が理解できました。3冊読まないとわからないというのは、ひとえに私の理解力が弱いためであり、著者や出版社がどうこうというつもりはありません。
 自分自身の控えとして、これら3冊に書いてある重要なキーワードをつなげておきたいと思います。

 ・資本主義は資本の自己増殖のプロセス。資本主義には「周辺(途上国)」の存在が不可欠。
 ・資本主義は「蒐集(しゅうしゅう)」で成り立っている。
 ・それは「無限空間」を前提としている。しかしもはや無限に拡大するという前提には立たない方が良い。
 ・その証拠がドイツと日本などのゼロ金利、マイナス金利の出現である。
 ・「無限空間」を前提にした資本主義は「より遠く、より速く、より合理的に」という論理でものごとを行う。
 ・その結果「セイの法則」に基づいてどんどん生産する。
 ・これは資本主義の論理であると同時に、民主主義の論理でもある。民主主義は一部の人しか使えなかった財をより多くの人が使えるようにすべきという考え方だから。
 ・空間が有限になってしまったので、「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)によって、だいたい3年ごとにバブルが崩壊して資本の蓄積が図られるようになってしまった。
 ・生産力が過剰になると、新規需要が発生せず、不良債権化する。
 ・これ以上モノがいらなくなると投資してもリターンが見込めなくなる。それがゼロ金利の原因である。
 ・ケインズはゼロ金利を望ましいことだと考えていた。そして、人生の目的として「人間交流の楽しみ=愛」「美しきものに接すること=美」「知性主義=真を求めること」だと考えていた。
 ・今なすべきことは、21世紀はどんな時代かをまず立ち止まって考えること。
 ・これからの時代は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」、今の前の時代である「中世」を参考に(中世を全面肯定しているわけではありません)。
 ・その方向性にいち早く舵を切ったのはEUであり、日本はEUと連携していくべきである。
 ・今後は成長主義から定常状態=減価償却の範囲内でしか投資を行わない=に移行していくことが必要なのではないか。
 ・そのためには①財政の均衡、②エネルギー自給率の向上(家庭ぐらいはせめて)、③地方分権を進めて身近な空間でものごとが終止できるように、という方向性が必要なのではないか。
 ・企業は利潤=創出された付加価値=を新規投資に回さず(研究開発が不要とは言っていないものの、純投資は負担の割にはリターンが小さいので)、雇用者の賃金に回し、そうすれば今よりも1.5倍程度の賃金が得られ、家計は増えた収入の一部を地域金融機関に預け入れる。これは利息ゼロの株式預金とし、現金利息ではなく現物で配当を受ける。つまり地域住民は地域金融機関を通じて地域の企業の利害関係者となる。地域の企業は顔の見えない株主に株式を売り買いされる不安定さから解放されるべきである。トヨタ自動車の新株(配当固定、元本保障、5年間は売買不可)はまさにその先鞭かも知れない。

 ・・・と、とても難しい内容で、私はまだ数回読み直さなくてはたぶんちゃんと理解できないのだろうなあと感じています。
 もちろん水野和夫さんの言っておられることが正しいかどうかはわかりません。こういう見方もあるのだということです。
 

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外国語対応のヘルプデスクについて考える

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 某月某日、富山県内のある中華料理店に入りました。
 店員さんとおぼしき人が、スマホ片手にスピーカー受話で何やら会話中。
 注文もできないので聞くとはなしに聞いていると、NTTがどうこうと相手が話していました。
 どうやら通信回線のトラブルのようで、相手の方は○フト○ンクのオペレーターさんのよう。
 結局、店員さんが日本語がまったく話せないわけではないものの、オペレーターの言葉がうまく理解できなかったようで、中国語で説明してくれるところがあるのでそこに電話し直して下さい、と言われ、店員さんはそのように。

 私は料理を注文し、出来上がったところで、店主が改めて中国語対応のヘルプデスクにかけ直されました。
 彼も店員さんと同じように、スマホでスピーカー受話で相談しているため、こちらまでまる聞こえ。
 もちろん中国語の部分は理解できないのですが、このヘルプデスクでは、初めに日本語のオペレーターが喋って、それを中国語を話す人が翻訳して相手に伝える、というやり方でした。
 たぶん日本語のオペレーターは通信ネットワークや機器の接続について一通りは知識のある方なのでしょう。
 それに対して通訳さんは言語をさえ訳せればいいので、通信技術の素養がなくても大丈夫。
 という仕組みなんだなあと食べながら聞きながら理解できた次第です。
 最終的には光の終端装置と○フト○ンクのルーターをつなぐケーブルを送りますから自分で取り換えて下さい、という話に落ち着いたようです。

 日本在住の外国人も相当増えてきているだろうし、インフラなどのユニバーサルサービスを提供する会社は、そういう対応ができて当りまえの時代になってきたのかも知れません。
 ひるがえって我が古巣のNTTはどこまでそのような対応ができているのだろうか、とちょっと、いやかなり不安になってきました。

 ところで食事が済んで帰り際に、大変ですね、故障時のバックアップとしてケーブルを2~3本買っておいたらどうですか、と店員さんに声をかけたら、NTTの光の屋内ケーブルはもう3回も取り換えていると言われました。
 えっ?とびっくりしたところ、レシートに素早くネズミの絵を描いて、指をさします。
 あ、ネズミが?と聞くと、そうなんです、普段は出てこないのだけど休みの日に出てきてかじってしまっているようなのです、との答え。
 はて、次回もこのお店に行っても大丈夫だろうか、ちょっと不安を覚えつつ店を後にしました。(まあ、中華料理は熱をしっかり通すのが多い、とはいうものの)

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塩野七生さんの『ギリシア人の物語Ⅱ』

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 書店で帯を見て思わず買ってしまいました。
 塩野さんの『ローマ人の物語』文庫版の30巻で止まっているのですが、この人のライフワークだったはずの『ローマ人の物語』が結了し、後は悠々自適にエッセイなど書いてお過ごしになってもいいはずなのに、なぜまだ旺盛な著作活動を続けるのか、それもローマよりも古い時代のギリシアにスポットを当てて大部の作品を手がけておられるのか、『ローマ人の物語』の第1巻でギリシアのことを結構なページを使って書いたのになぜまた稿を新たに書いておられるのか、日本のことが気になって仕方がない(と思われる)塩野さんがなぜ今ギリシアの民主制を書くのか、そんなことが一気に頭の中を駆け巡り、即レジに行きました。
 塩野七生節というと失礼かも知れませんが、この人の語り口には相変わらず独特の趣きがありグイグイ引き込まれます。

 前半は毎年民主的に選ばれ、30年もの長きにわたりアテネの平和と繁栄を先導した政治家ペリクレスについての記述です。現状をしっかり説明し、自分の考えを伝え、可否判断はきみたちだと明言する。塩野さん曰く「真の意味での政治家であった」。
 ペリクレス時代の最晩年に始まったペロポネソス戦役。アテネの首相ペリクレスも相手国スパルタの王アルキダモスも(この二人は友情と信頼で結ばれていたらしい)どちらも戦争になることを望んではいなかった。にもかかわらず27年間もだらだらと、直接の戦いもないままに続いてしまい、最後はアテネの劣化、さらにはギリシア世界の衰亡に至ってしまったということです。
 159ページからのペリクレスの開戦1年後の演説は現代ヨーロッパの高校の教科書にも載っている見事な民主的なマニュフェストだと塩野さんは評しています。
 「われわれの国アテネの政体は、われわれ自身が創り出したものであって、他国を模倣したものではない。名づけるとすれば、民主制(デモクラツィア)と言えるだろう。国の方向を決めるのは、少数の者ではなく多数であるからだ。・・・(中略)・・・アテネ市民が享受している、言論を始めとして各方面にわたって保証されている自由は、政府の政策に対する反対意見はもとよりのこと、政策担当者個人に対する嫉妬や中傷や羨望が渦巻くことさえも自由というほどの、完成度に達している。・・・(中略)・・・アテネでは外から来る人々に対して門戸を開放している。他国人にも機会を与えることで、われらが国のより以上の繁栄につながると確信しているからだ。」
 これほどの賢い人々だったはずのアテネが、ペリクレスの晩年以降、衆愚政治と言われるような状態になってしまいます。
 塩野さん曰く「デモクラシー(民主制)のコインの裏面がデマゴジー(衆愚制)なのだ。」
 この違いは、ペリクレスがいなくなったらアテネ市民がバカになったわけではなく、リーダーの性質が変わっただけだと書いておられます。
 「民主制のリーダー:民衆に自信を持たせることができる人、衆愚制のリーダー:民衆が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を、煽るのが実に巧みな人。前者が「誘導する人」ならば後者は「扇動する人」になる。前者は、プラス面に光を当てながらリードしていくタイプだが、後者となると、マイナス面をあばき出すことで不安を煽る。」
 そんなこんなの紆余曲折を経た後、ペロポネソス戦役は徐々にアテネの敗色が募り、最後は完膚なきまでに打ちのめされてアテネは衰亡の道を辿っていきます。途中、ペリクレスの甥でペリクレスの後継者的な位置づけになるアルキビアデスという政治家が現れたりしますが、この人はアテネから追放され、敵方のスパルタの指導者になり、次いでペルシアの軍を率い、またアテネに戻るという不屈の人ですが、最後には暗殺されてしまったようです。
 歴史にifは禁物とはいうものの、後になって振り返ると、先見の明のある優れたリーダーを、民の選択で潰してしまい、自ら滅びの道を辿ってしまうこともありうる・・・上から法律で道徳感や公益への奉仕を強制するのではなく、一人ひとりが自発的に共助に向かうような心の豊かさがあれば、衆愚などと言われるような状態にならないような気もしますが、不満が募るとついアジる人についていってしまう弱さを持っているのかも知れない、そんなことを塩野さんの本を読むと感じます。

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エイプリルフールについて考える

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 昨日はエイプリルフールでした。
 嘘をついても良い日、という風に一般的には認知されている日です。

 中学生の頃に読んだ江戸川乱歩さんの本に「プラクティカルジョーク」を趣味にしている人物の話が出ていました。
 「ペテン師と空気男」という題名の短い小説でした。
 電車の中で口から黒い糸を出している人物がいて、たまたま乗り合わせた主人公が「何をしているのか」と尋ねると、その人物は「胃の消化に関する実験をやっている」というような返事をし、さらに突っ込んで尋ねると、「金柑だけを食べており、胃袋には、糸で垂らした小さな容器が入っている、その容器を後で取り出して、胃の中の消化物がどうなったかを調べるのだ」という主旨のことを説明するのです。
 よくよく聞くとそれは手の込んだ冗談で、黒い糸の先には何もない。単に口に入れてあるだけで、自分の姿に関心を持つ人をからかうためのセットだという話。
 物語はその後もしばらく続いて、件の人物は最後は新興宗教の教祖となって多くの人をだますのですが、ジョークも規模が大きくなると新興宗教にもなれるという話です。だまされる方も壮大なジョークの主に自分の判断を任せてしまうことで精神的な疲労から解放される(心の苦労から楽になる)という道を選択するので、悪い気はしていません。ある意味エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』に似た心境なのかも知れません。ちなみに電車の中の主人公はその教祖の魅力の虜になってしまい、そのまま秘書か何かになるというオチだったと思いますが、子どもながらに新興宗教とは所詮そんなものかも知れないなと妙に納得したことを覚えています。

 最近は人をだます、はめる、ということはあまり良い行いではないという空気があるように思います。
 確かに悪意のある嘘はいけないと思いますが、さもありなんと思わせる軽い冗談(誰も傷つけないような)はたまにはあってもいいのではないか、せめて4月1日ぐらいは・・・と思っています。
 とはいえ、なかなかそういう軽いノリで人に嘘をついて、後からそれが嘘だとわかっても笑って許してもらえるシチュエーションはなかなかないものですね。
 私はちなみにフェイスブックで、年齢詐称の誕生日の話題、フルマラソンのコースがない大会でのフルマラソン出場宣言、今話題の映画の主人公二人が朝市にサイン会に来てる、巨大ネット産業と運送業の買収話、などなどいくつかの嘘を書き連ねて、最後に「嘘でーす」という遊びでお茶を濁しました。
 中には私の年齢詐称を信じて下さった方もあり(本当だと思った、という嘘かも知れませんが)、ひと時楽しく過ごしたエイプリルフールの日でした。お付き合い下さった皆さんに感謝です。

 では明日からの新年度、明るく楽しく元気に乗り切っていきましょう。

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うおづビジネスプランコンテスト

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 新規事業に関する政策が色々打ち出されています。
 魚津市でも創業や新規ビジネスを支援すべく「うおづビジネスプランコンテスト」という催しが初めて開催されました。
 魚津市になんからの関わりのあるビジネスプランを募集するというもので、結構短い募集期間だったように思いますが、47件もの応募があったそうです。
 今日はその中から厳選された8件のプレゼン大会でした。

 プレゼンに先だって経済評論家の森永卓郎さんの基調講演が行われました。
 有名なライザップでの減量経験談で会場を沸かせた後は、本業の経済論をひとしきり。
 いくつか私なりに選んだキーワードを記しておきます。

①1960年から1975年までの高度経済成長時代
②この時代に夫婦に子ども2人の計4人という「標準家族モデル」が作られた。
③〇〇の動きに乗れば必ず儲かる、といううたい文句はこの高度経済成長時代の呪縛による引っ掛けであり、現代の多様化した時代にはありえない。
④標準家族モデルでは、みんな同じライフスタイルでありみんな欲しいものは同じだった。だから隣がカラーテレビを買えばうちも、となったし、戦後のベビーブーム世代が一斉に大人になったので大量生産・大量消費が起こりえた、奇跡の時代だった。(一部筆者補足)
⑤2015年10月の国勢調査では30代前半男性の過半数が非婚。
⑥女性から見た男性の4区分。イケメン、フツメン、ブサメン、キモメン・・・後ろ二つはちょっとひどいなあと思いますが、我々男組も女性に対してコンテストだのランキングだのタイプ分けだのすることを思えば、これで平等ってことかも知れません。しかし話術が巧みだったりお笑いができれば後者もイケるため、森永さん曰く「変な人が増えてきた」ということです。
⑦すなわち多様化の時代ということ。
⑧ここで話題は急転直下。日本が目指すべき経済社会はイタリア型という主張。(色々批判はあるそうですが森永さんはこの主張を10年来持ち続けているとのこと)
⑨イタリア企業の特徴その1。現場への権限移譲による現場の裁量の自由度とスピーディーな意思決定。
 トップが絶対権限でデザイナーと販路と商品を決める。後は現場任せ。トップは口を出さない。たとえばフェンディは年間1500もの新商品を出している。上司がこまごまと口を出さないからこれだけのことがスピード感を持ってできる。おっさんがごちゃごちゃ言って社員の感性を評価せず、評価は市場に委ねる。その中でヒットしたものはどんどん売る。市場に出して売れなければ廃番にする。だからモノマネの国も追いつけない。だから真似されない。
 社員はどうやったら効率が良くなるかをいつも真剣に考えている。その改革案・改善策はどんどん自分で実行できる。上申不要、会議もない。残業はなく夏休みは1か月以上取得するが、それは働かないのではなく一年を11か月で考えて段取りし、効率改善を必死に考えている結果である。それでいて一人当たりGDPは日本とほぼ同じ。高い経済成長を100年以上継続している。(100年前はアルゼンチンに出稼ぎに行くいくらいに経済レベルは低かった)
 価格競争に陥るコモディティ商品よりも付加価値の高いアート商品を考え具現化している。例えば百均でも売っているトイレブラシでも本物の植木鉢っぽくすることで数千円の値段で売れる。
⑩アートとは、岡本太郎氏の定義によれば「見た瞬間、なんだこりゃ!?と思うが、一歩離れると気になってしょうがないもの。よって単に美しいものはアートにはなりようがない」というものだと。
⑪イタリア企業の特徴その2。どんな場面に遭遇しても決して暗くならない。
 だめになる会社の社長は社員に対して経営環境の厳しさとそれに打ち克つための頑張りを求めるばかり。経営環境が厳しいことなど、社員もわかっている。そこへまた悲壮感を漂わせるようなメッセージを発すると、いわば傷口に塩を塗りつけるようなことになる。社員はやる気が失せる。そして会社は社長が宣言したとおり厳しさの中でだめになっていく。・・・森永さん25年間の中小企業研究から発見した「法則」だそうです。
 対してイタリアの経営者の社員向けメッセージのポイントは3つだけ。歌おう、食べよう、恋をしよう。かの国の人たちはリーマンショックのような大変な経済危機が訪れても切り替えが早くうまいそうです。だめなことは引きずらない。起こったことそれ自体は取り戻しようがない。「次行こ!」ということです。

 そういえば、誰かが、植木等のノリで日本経済を再活性化させようではないか、と言っていたような気がします。
 もしかすると森永さんだったかも。

 良い悪い、好き嫌いはあると思いますが、私自身企業経営の支援をしていく上で、色々参考になる点があった講演でした。

 さて、ビジネスプランコンテストの結果は、最優秀賞1名、優秀賞2名、特別賞2名が選出されました。お世話をなさった魚津市及び魚津商工会議所並びに㈱アシステムの関係者の皆さん、大変素晴らしいイベントだったと思います。心から敬意を表したいと思います。
 次回に向けたキーワードとして審査委員長の中尾哲雄さんが「交流」「組合せ」「失敗を恐れずに」ということを講評で仰っていました。
 今回のイベントを嚆矢として、魚津市、さらには富山県東部地域が元気になっていくよう、私もなにがしかの貢献ができればと思っています。差し当たりは地元で行われる創業スクールのお手伝いなどさせていただき、やる気のある人たちの勇気づけ・理論武装・プレゼン支援などができればと思います。

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日経メッセ2017

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 〇〇総合展とか〇〇フェアとかいうのにしばらく行っていませんでしたが、過日久しぶりにその手のものに行く機会を得ました。
 東京ビッグサイトで開催された「日経メッセ2017」。
 街づくり・店づくり総合展という副題がついており、建築・建材、LIGHTNING FAIR、ヘエルスケア&スポーツ、など様々な分野の展示がある中で、私が訪れたのはリテールテックというコーナーとSEKURITY SHOWというコーナーでした。
 リテールテックは文字通り小売業に関する技術展示で、POSレジの高度化に関するようなものが多かったように感じました。またSEKURITY SHOWについては、情報管理に関する最前線の動向を期待して訪れました。

 今回気になったのは以下の展示でした。
①外国で発行されている非接触型ICクレジットカード用の自販機。
 現在日本国内で流通している自販機でICクレジットカード向けのものは国内発行のカード用だそうで、カード決済が当たり前になっている国の人にとっては使いでが必ずしも良くないそうで、そういうお客を取り込めるよう、2020年を視野に入れた展示でした。日本で発行されているICクレジットカードはまだ接触型が大半で、海外ではVISAやMASTERなどが先行して非接触型のICクレジットカードの発行がどんどん始まっているとのこと。(データの裏付けはとってありません)

②指静脈認証
 これは日立さんの展示ブースで見せてもらったものです。
 自分の指静脈情報をあらかじめ登録しておき、買い物の際にそれで本人性を照合することで、財布もクレジットカードも免許証もいらない、というもの。
 自分の指静脈の情報なんていうある意味極めてプライバシー性の強い情報を個々の小売業者に渡すことが良いことなのだろうかとの疑問は残るものの、そういう技術開発がどんどんなされて実用化段階に来ているという事実。
 顔認証や光彩認証や指紋認証など、人体認証方式というのが究極の本人性確認方法として有効だという考え方に基づくものだと思います。デファクトスタンダードを目指して各社しのぎを削って競争していくんでしょうね。

③VR買物
 これも日立さんです。
 自分のお気に入りのショップを仮想空間に作り、そこへ友達を誘って一緒に商品を見て選ぶことができる、というSNSとバーチャルショップの組合せです。そのショップにはAIコンシェルジェがいて自分の好みに合わせた服や飲食料品や本などを提案していくれる、というもので、10年前にはSFとしか考えられなかったような、トム・クルーズのマイノリテイ・レポートのような世界がほぼ現実化してきているという印象を受けました。

④セキュリティコーナーはカメラセキユリティのオンパレードでした。
 どの企業もカメラの展示ばっかり。
 ハードメーカーはルーターなどのネットワーク製品の展示もしていましたが、目につくものの大半はカメラでした。防犯カメラか監視カメラかという議論はあるものの、日本もイギリスのようなカメラ社会になっていくのかも知れません。
 なおNECさんが数少ないネットワークセュリティの展示をされていました。

⑤その他
 IPA(独法・情報処理推進機構)さんの出展で、同機構が出版している啓発関連パンフが多数配布されていました。
 その中で「自動車の情報セキュリティへの取組みガイド」というのがありいただいてきました。昨今クライスラーのGEEPのハッキング実験など自動車のハッキングが話題になっています。仕組みや対策などが書いてありそうなので格好の勉強材料が手に入りました。
 (一財)流通システム開発センターさんも色々パンフ類を配布しておられ、バーコードに関する基礎知識的なものをいただいてきました。勉強勉強。

⑥セレンディピティ
 私が注目云々ではありませんが、最近仕事の関係で「分煙」とか「ドローン」とか「グループウェア」の情報収集が課題になっていました。
 それらを意識していたせいか、関連する商品展示や情報を今回の広い会場の中でピピッピピッと感知することができ、手がかりをいただくことができました。
 日ごろ気にしていると偶然何らかのヒントや手がかりに会えることがあると改めて思いました。

 こういうフェアはほとんど東京ばっかりで、ちょっと遠いし費用もかかりますが、たまには行かなきゃ、と思いました。
 今度はゆっくり行って旧友とお目にかかる時間も作らねば。

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ANAビジネスソリューションによる『ANAの教え方』

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ANAの・・・というシリーズが既に2冊出ており、これは確か3冊目になると思います。
『ANAの口ぐせ』という本を以前読みましたが、この本もとても平易で読みやすかったです。

日本の企業の中でも特に優秀な人たちの集まりであるANA。
そういう優秀な人たちの集まりだからこそできる、うちのような会社には無理だ、という考えもあるかも知れません。

やってみなければわからない。いいと感じたら愚直にやってみれば良い。と私は考えます。コンサル先の企業にもお勧めしています。もちろん、企業規模や許容度合などを考えながら、ではありますが。

たとえば「注意されるのは、当りまえのことばかり」という箇所があります。ベテランと中堅と新人で構成されるチームの中で、ベテランが新人にレベルの高いことを教えるのかと新人は期待したがさにあらず。誰でも知っている当りまえのことばかり教えられるということです。基本の大切さをベテランから口酸っぱく刷り込まれることで、基本がいかに大切か、本当に大切なことは基本動作なんだということに気づかされるということです。
 NTTでも民営化されてしばらくすると、新しいことをやらなければという雰囲気が蔓延していたことがあります。基本をおろそかにすると、事務ミスやお客様からのクレーム多発につながります。その時の社長が「基本動作の徹底」ということをずっと言い続けておられたことを覚えています。当時は何を今さら、と思ったものですが、基本なくして応用も発展もないということだと後々色々な場面で感じます。

その他「今日のことは今日のうちに振り返る」「リーダーは方針を明確に伝えること、方針が明確であれば各現場段階でも判断に迷わない(言わずもがなかも知れませんが、ANAの最優先方針は安全)」「後輩へのフィードバックは書いて残す。記録するのは自分の思いや評価ではなく、事実」「目標は必ず個人レベルに」「PDCA+S(Share=共有)」「絶対ダメなことは気づかいゼロで叱る(厳しく叱る、すぐにやめさせるのは安全に影響を及ぼす行為」など、改めて参考になることが色々ありました。人によって感応するポイントはまちまちでしょうが、企業内教育に関する平易な良書だと思います。

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