まだ52歳の若さで伝記が出る人物。父のエキセントリックな子育て、南アフリカの過酷な環境など子ども時代の体験がその後のこの人の人格を形成しているのだろうということは想像できますが、この人の天才的な発想や同時にいくつもの事業を経営し続け、新たなことにも挑戦していく頭脳がどこから出て来るものか、はこれとはまた別の理由や背景があるようにも感じます。ただ、一攫千金を得た父を乗り越えたいという思いはあったのだろうなと感じます。子どもの頃、昼から夜の9時までぶっ通しで本を読み続ける集中力、授業中に先生が呼びかけると窓外の景色のことを返事してしまう、これも集中力、何かに没頭するとまさに寝食を忘れてのめり込む集中力、仕事の合間の休憩にやるゲームでも集中してしまう(休憩になっているんだろうか?なっているんでしょうね、きっと)集中力。天才と言われますが、天賦の才は頭脳そのものではなく頭脳を集中して使い続けられる集中力のことを言っているのかなという気にすらさせるのがイーロン・マスク氏の本を見た感想の一つです。
家族では、まず弟のキンバル・マスク氏。私自身は初めてそういう人の存在を知りましたが、イーロン氏の事業において欠かすことのない貴重な存在であることが、本からはにじみ出てきます。母のメイさん。父は恐らく厳父だったのでしょうけど、母は慈母といって良いような印象を受けました。人生の多くの場面でお母さんが出て来ます。とっても仲が良さそうです。また、最初の奥さんとの間に5人の子をもうけ、その後3回か4回、結婚または非婚の状態で子どもをもうけており、数えていませんが、たぶん10人ぐらいのお子さんがいるようです(亡くなったお子さんもいるようです)。
物理法則以外は規則とは言わない物理法則以外は勧告である・・・本人の抱えている病気のせいか、人の心への配慮があまりできない人のようで、心理学などはこの人の中では下位に属しているようです。しかし組織運営においては学ぶべき点もありそうな感じです。曰く
・技術系管理職は実戦経験を積まなければならない。たとえばソフトウェアチームの管理職なら仕事時間の20%以上は実際にコーディングをしていなければならない。ソーラールーフの管理職なら、自分も屋根に上って設置作業をしなければならない。そうしなければ、馬に乗れない騎兵隊調、剣の使えない将軍になってしまう。
・まちがうのはかまわない。ただし、自信を持った状態でまちがうのだけはやめにしよう。
・自分がやりたくないことを部下にやらせてはならない。
・解決しなければならない課題に直面したら、管理職に伝えて終わりにしないこと。階級を飛ばし、管理職の下の人間と直接会うこと。
・採用では心構えを重視すべし。スキルは教えられる。
・失敗して学べ。
・第1戒:要件はすべて疑え。頭のいい人が決めた要件ほど危ない。私が定めたものであっても、要件は必ず疑え。そして、おかしなところを少しでも減らせ。第2戒:部品や工程はできる限り減らせ。第3戒:シンプルに、最適にしろ。(必要のないものを最適化するのではなく必要のないものをなくした上での最適化であること。)第4戒:サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。第5戒:自動化しろ。これは最終段階だ。自動化から始めるのは間違い。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。(これらはこの順序のとおり行うこと)
著者のウォルター・アイザックソン氏によると、本の事前校閲のようなことをイーロン氏は一切行っていないそうです。イーロン・マスク氏にとって有限の時間の中で何を優先すべきかという、そのリストの中にすら自身について書かれた本の校閲などという項目はないのかも知れません。