「クローズアップ現代」元キャスター国谷裕子さんのラジオインタビューを聴いて

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先日、NHK-TV「クローズアップ現代」のキャスターを23年間務められた国谷裕子さんのラジオインタビューが放送されていました。http://www.tbsradio.jp/117978(←こちらのサイトでしばらくは音声が聴けるはずです)
ずっと以前は夜9時半頃からやっており、その頃は帰宅して食事をする時間と重なっていたのでよく見ていました。一つのテーマをしっかり掘り下げる時事情報番組であり、毎日違う話題をよくここまで深く取材して対応しておられるなと、スタッフは複数クルーで構成されていたのでしょうけど、キャスター自身は国谷裕子さん一人だったので、毎回感心して見ていました。
いつの間にかその時間帯での放送がされなくなっていたため、番組自体がなくなっていたものと思っていましたが、昨年の騒ぎで継続していたことを知りました。

私から見た「クロ現」での国谷裕子さんのイメージは、公共放送のしっかり者のキャスターという感じでしたが、このインタビューを聞いて意外な事実を知りました。
小学校5年生までしか日本の学校での勉強をしていなかったため、アメリカの大学を卒業した時点で日本のことは全然知らなかった、と仰っていました。一旦外資系の日本企業に就職したものの、マーケティングはどうも自分の居場所ではないと感じ、10か月で退職、自分探しのためにバックパックをかついでたった一人で世界一周旅行に出かけた。その後NHKの海外からのリポーターのような仕事をしたが、あまりうまくいかず半年で降板、降板を繰り返し、自信喪失。日本人でありながら日本のことはわからないし、日本語の扱いも不自由で、キャスターとしても役に立たず、自分のアイデンティティも確立できず・・・というコンプレックスにさいなまれていた時期もあったようです。(ラジオを聞いての私の印象も含みます)
あの国谷裕子さんにしてそうだったのかと、大変驚き、またその心労に思いが至って涙が出ました。と同時に素の国谷裕子さんの飾らない語り口に触れ、改めて好感が持てました。

その文脈からすると、その後の「クロ現」に出ておられた時期も、日本ってどんな国なのか、日本の人々はこの事案をどう捉えているのか、などのテーマを持ちつつの、自分探しの旅をずっとなさっていたのではないかと感じました。
と同時に、この人の真摯な姿勢に改めて感動を覚えました。
フェアネス=公平さとは何か。
どんな人にも聞くべきことを聞くことがフェアネスである、と国谷裕子さんは言っていました。国民の多くが知りたいと思っているであろうことを聞くこと、そうやってものごとの背景にあった真相へ近づいていく。この人のストレートかつ鋭いインタビューの背後には(放送時間の短さという制約ももちろんですが)、日本のことをよく知らないからもっと知りたいという若い頃のトラウマが無意識のうちにあったのかも知れません。もちろん、相当しっかり勉強して毎回の番組に臨んでおられたことは当然のことであり、素人が「知らないから教えて」というお仕事ぶりでなかったことは明らかです。

「クロ現」を離れてはや一年、もとよりNHK職員ではなくフリーだったそうですが、より自由な立場になり、日本を代表するインタビュアー、ジャーナリストとして今後益々活躍されるよう楽しみにしています。この本ももう一回読んでみなきゃ。

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リンダ・グラットンさんの『LIFE SHIFT』

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 「100年時代の人生戦略」という副題がついています。
 重厚な本ですが、示唆に富んだ良書だと思います。これからの長寿社会という人類がまだ経験したことのない新たな地平に立ち向かっていく上での勇気を持たせてくれる挑戦的かつ実験的な本だと感じました。
 既に私たちの身の回りでも80歳を超えて元気な方が大勢おられます。
 これからはさらに平均寿命が延びるだろうとの予測のもとに、何歳まで働くべきか、金融資産はいかにすべきか、働く者と企業の関係はどうなっていくか、企業はその変化にどう対応していくべきかなど様々な観点から考察が加えられています。
 著者は「教育⇒仕事⇒引退」という従来の一直線かつ一斉行進型のモデルである「3ステージの人生」から、仕事をいくつか変わる人もあるし、途中でしばらく仕事を離れて自分に再教育して改めて登場する人もあるため、エイジ(年齢)とステージ(立場や役割)が分離する「マルチステージの人生」へと変化していくだろうとみています。
 しかしこの変化は急激ではなく「ゆっくり進む」とも言っています。

 このような変化を踏まえ、私たちに必要な資産が4種類あるということです。
1.生産性資産:評判、職業上の人脈、知識
2.活力資産:自己再生の友人関係、健康、人生のバランス
3.変身資産:自己理解、新しい人的ネットワーク、行動力
4.有形資産:マイホームや貯蓄

 この中で「自己再生の友人関係」はとても大事なものだと私も思いますが、子どもの頃から築かれてきた親友関係は、会社の中で仕事をしていくにつれ関係が希薄になっていき、定年退職する頃には友だちが全然いない(仕事関係の“友人”はいても仕事から離れると関係なくなってしまう)という場合もあるようです。
 今はSNSをうまく使えば、昔からの友人とも気軽に連絡を取り合ったり消息をお互いに確認しあったりすることができるようになりました。
 しかし密度の濃い間柄を維持することは容易ではありません。しかし時々そのコミュニティの中に戻って自己再生をすることはとても大事なことだとこの本を読んで改めて感じました。

 仕事をする集団である企業においても様々な課題があると著者は言っています。
 以下は「企業が今後直面し対応を求められる課題」の例です。
1.無形資産形成の後押し(生産性資産、活力資産、変身資産)
2.変身資産構築・維持の支援
3.キャリア制度・仕組みの見直し
4.仕事と家庭の関係の変化への理解(家庭それぞれ家族の役割が異なるし、子どもなどの構成状況によっても一律ではないことへの理解とその事情に応じた対応)
5.年齢を基準にしない(70歳、80歳の人の方が40歳、50歳の人よりも高スキルというケースもあるといったようなこと)
6.実験的な働き方・評価の仕方の容認(人類が経験したことのない取り組みをすることに対する寛容性)

 前著『ワーク・シフト』から寿命が延びていく社会における生き方・立ち向かい方に特に焦点を当てて書かれた著書というふうに私は捉えました。
 『ワーク・シフト』にも想像しうる世の中の変化と、その変化にどう立ち向かっていくべきかなどについての知恵が色々書かれているようなので、この勢いで読んでみようかと思っています。

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2期にわたる大学での講義を終えて

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 先日も書きましたが、ご縁で富山国際大学という大学で「情報社会論」という科目を受け持たせていただきました。

 平成27年度の後期と28年度の後期の2期、非常勤講師という立場での対応でした。
 受講者は各年度約50名ずつ。
 それぞれ15回の授業と期末試験の全16工程。
 初年度は依頼をいただいてから開始まであまり時間がなく、前任の方の授業構成(シラバスっていうんだそうです)をなぞって取り組み、2回目の今回は前回のものを利活用しつつ最新の動向なども含め、構成を全体的に見直しました。

 全15回のカリキュラムは次のとおりです。

 第1回 オリエンテーション、情報社会論序論
 第2回 人類の歴史と情報革命、コンピュータの登場
 第3回 「情報システム」という考え方 ~OAからSISへ:企業情報システム、国家レベルの情報システム、EUCとパソコン~
 第4回 情報と通信の融合的発展:ニューメディアからインターネットへ ~通信プロトコル、標準化、TCP/IP~
 第5回 経済社会とIT その1 ~私たちの生活に直結しているIT、POS、カード、家庭や労働とIT~
 第6回 経済社会とIT その2 ~IoT、ビッグデータ、知識労働者~
 第7回 ネットワーク社会の光と影 その1 ユビキタスコンピューティング社会、Web2.0からWeb4.0へ~
 第8回 ネットワーク社会の光と影 その2 ~監視社会、情報犯罪、情報セキュリティ~
 第9回 メディアの変容、口コミとデマと流言飛語 ~瓦版からTwitterまで~
 第10回 情報社会の倫理と情報リテラシー
 第11回 情報社会を支える法、国の情報戦略、情報公開と情報保護
 第12回 IT産業の発展と今日のIT業界における覇権争い ~Google、Apple、Amazon、Facebook、他~
 第13回 諸外国のIT化動向
 第14回 これからの情報社会を考えるためのキーテクノロジーズ ~電子商取引、電子マネー、クラウド、AIとロボット、そして人間はどこへ?~
 第15回 まとめとふりかえり

 作成したパワポの枚数は千枚以上。配布した分だけだと約600枚になります。
 もしも次年度もあれば、これにまた最新情報を加えたり深堀すべきものを付加したり古いものを廃棄したりという更新をかけて臨むつもりでした。
 が、次年度この授業は、本来の姿である大学の専任教員の方が対応されることになったので、私の役割は終了しました。

 お話をいただいた時に相談した師(元・同大学の教授)から、「人に教えるテーマとは、実は自分が学ばなければならないことなのだよ」と言われ、豁然と理解させられた覚えがあります。
 確かに、この2期間学生の皆さんに伝えるために、自分の中で一つの科目についての体系・骨格が形作られたような気がします。
 もちろんこの分野はドッグイヤー、ラットイヤーなどと言われるように日々激しく変化し、主流になっていくもの・いつの間にか消えていくものなど目を見開いて世の中の動向を見ていなければならず、情報が体系化されたとしてもその瞬間から陳腐化していきますので、じきに使い物にはならなくなるネタも沢山あると思います。
 ではありますが、昭和59年に電電公社に就職してから歩んできた自分の情報通信業界での社会人生活を振り返りつつ、最先端の情報社会の動向などを学んで90分一コマの授業を15回分に整理できたことは大変有意義な時間だったし、色々なことが体系的に整理できて、とても勉強になったことは間違いありません。
 またNTTの研修センタで社内研修の講師をさせていただいた経験も、この大学の授業を行う上で大いに生かすことができました。
 どこで何がどうつながるか、ほんとにわからないもので、私を育んでくれた会社、先輩・同僚・上司、この話を私に紹介して下さった中小企業診断士の大先輩、私でいいよと仰って下さった大学の教授の方々、などなど多くの人に感謝感謝です。
 授業の日は大体晴れの日が多かったですが、最終日だけは雪が積もりました。
 いい経験をさせていただき、本当にありがとうございました。

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