野村総研のリチャード・クー氏の『日本経済を襲う二つの波』(徳間書店)という本を読んでいる。
今年の6月に出版されたものだが、なかなか面白い。
主張の中の特に重要なポイントは、現在のアメリカ発世界同時不況は「バランスシート不況」であり、これは金融対策だけでは解決しないという点だ。
すなわち、ITバブルがはじけたときに、FRBのグリーンスパン議長が低金利政策をとって貸し出しを増やし、それでもって潜在している住宅バブルを吹き飛ばそうとしたが、企業にとっては自社のバランスシートが傷んでいるために信用力の回復のために借金返済に走り、どんなに低金利になってもお金を借りるという行動にはなりにくい、それよりも必要な支援は企業の自己資本増強であり、すなわち財政出動なのだが、グリーンスパンはそれをしなかったために金利は下がる、住宅価格は下がる、企業は金を借りないので投資に回らない、という負のサイクルに入って行った、そういう中にあって今しなければならないことは、財政出動による銀行や企業への資本注入である、という主張である。
私のような金融音痴にもわかりやすい書き方をしてある。(ここにそのわかりやすさを伝えられない自分がもどかしいが)
で、そういう財政出動論者として、それこそ今度のオバマ政権で財政分野のリーダーになるサマーズ氏や麻生総理の「支援発言」で久しぶりに注目を集めているIMF(世界通貨基金)のストロスカーンという専務理事にエールを送っておられる。
これまで竹村健一や長谷川慶太郎、大前研一などの議論を見てきたが、今回のリチャード・クー氏の本は大変なものだ。
大変わかりやすく論旨も通っていて、歴史認識もしっかりしている。
10年以上前から存在は聞いていたが、こんなにすごい人だとは思わなかった。
この人にかかっては、ポール・クルーグマン教授もバーナンキ現FRB議長も、所詮学者であり、経済の実際の中で有効な手を打てる識見はない、と両断される。
まるでサマーズさんの再登板を予見していたかのような感じで、ビックリしている。
それともう一つ面白い点。
金融庁の検査官の人数を10倍に増やせ、と主張し、通ったらしいのだが、その後の金融庁の肥大ぶり、そして銀行への締め付け、それの結果として表れる中小企業への貸し渋りなどのしわ寄せ・・・。
この人は、日本の役人が自己肥大化という習性を持ち、権限を持たせるとそれに乗じてどんどん大きくなり、保護しなければならない対象のことよりも自分たちの権益拡大に走るということへの理解がなかったため、金融庁を大きくせよと言った結果、実際に大きくなったまでは良かったのだが、その後の彼らの無見識ぶり(資本として銀行に注入したお金を「返すのが当然」と発言していた幹部がいるらしい・・・資本というのは返すべき「融資」ではないにも関わらず、である)、暴走・暴言ぶりにあきれかえっている。
資本として注入した公的資金を「返せ」と言われると、銀行は資本勘定からはずさなくてはならなくなり、その結果銀行の自己資本比率が下がる。自己資本比率が下がると、それ以上低下しないように、返済の困難だと思われる企業には融資しなくなる。それが貸し渋りと言われる。つまり、助けなくてはならない中小企業への金融の道を、金融庁が銀行を締めることによって、自ら閉ざしているというわけだ。
曰く「権力をふりかざし要りもしない発言を繰り返し、箸の上げ下げにまで口を出し、銀行経営に干渉した。これらの金融庁の余計な干渉も、結局のところ、銀行の自然な回復をかなり遅らせることになってしまった」
ああ、すごくわかりやすい。
ありがとう、リチャード・クーさん。
当分、この人の発言や著書から目を話せないぞ、と。
リチャード・クーの本
返信