永井紗耶子著『秘仏の扉』、P.G.ウッドハウス『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』

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魚津の市立図書館でちょっとしたイベントをやっており、しばらくぶりに訪れたところ、偶然目に入った一冊が、新聞の書評で目にして興味を持っていた永井紗耶子さんの『秘仏の扉』です。秘仏といえば、大体がお寺の奥深く厨子の中に安置され何百年も人の目に触れることのなかった仏像などが想起され、しかもその仏像の中には小さな本尊が納められていたり、あるいは作られた時のいわれが彫り込まれていたりと、色々なエピソードが連なってくるものです。日本の秘仏の中でも代表的なものが法隆寺夢殿の救世観音像ではないでしょうか。
この本は法隆寺夢殿の救世観音像を軸に、その周りをめぐる様々な関係者の日常や歴史上の出来事を縦糸横糸で縦横無尽につないで話をつむいである、オムニバスのような物語です。どこまでは史実でどこからが著者の創作かはよくわかりませんが、場面が過去に遡ったり現在(明治21年)に戻ってきたり、行ったり来たりを繰り返していくうちに、時間の前後がだんだんわからなくなり、しまいには「過去はない、常に今なのだ」という感覚に陥ってしまいました。これは著者の力かも知れません。
主人公は誰なのか、最初は夏目漱石のあの有名な写真なども撮った小川一眞(おがわかずまさ)さんという人が中心に描かれているのですが、途中から九鬼隆一・波津子夫妻と岡倉天心の醜聞に話がシフトしていき、最後は岡倉天心と町田久成という人物のやりとりに収斂されていき、当然アーネスト・フェノロサや千早定朝師なども出てくるのですが、やはりそれらの中心にいる(ある)のはかの救世観音像なのです。
救世観音像がつぐませた(或いは、狂わせた)人々の人生と言いますか・・・。

私自身、初めて本物の法隆寺夢殿の救世観音像に相まみえた時は、シニカルな微笑みに、安らぎよりも得体の知れぬ不安を感じたことを覚えています。と同時に、この仏像は聖徳太子を模した仏像だということから、こんな顔だったのか、という不思議な気持ちになりました。

さて『ジーヴズの事件簿』は、どこで目にしたのかは覚えていませんが、現在の上皇后さまが、これから『ジーヴズ』を読むのが楽しみだという主旨のことを仰っていたとかいう情報を目にして、一度読んでみようと思った次第です。
スーパー執事(20世紀の初め頃の英国での出来事であることを申し添えておきます)が活躍するユーモア推理小説という感じでしょうか。面白かったです。

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永井紗耶子著『秘仏の扉』、P.G.ウッドハウス『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』」への2件のフィードバック

  1. 中陳様 ご無沙汰しておりました。『秘仏の扉』『ジーヴズの事件簿』ともに面白かったということで何よりです。トーマス・マン「魔の山」の後に読まれたと思いますのでなお一層良かったということはないでしょうか。
     この後はまた難解な書物に挑戦されるのでしょうか。
     8月27日はよろしくお願いいたします。

    • 浜田様
      コメントありがとうございます。
      あちこちに積読状態で本が散乱しており、その時々の残り時間や気分で手に取っています。が、それらのうちトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人びと』と筒井康隆さんの『夢の木坂分岐点』はいつでも読めるような場所に置いて、少しずつ読み進めています。
      また次回よろしくお願い致します。

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