この4月から「富山県よろず支援拠点」のチーフコーディネーター(相談員 兼 他の支援機関との調整係)の職を拝命しました。前任者がとても素晴らしい方であり、私のみならず他のコーディネーターもその方を慕う気持ちでこの仕事をしてこられた人たちが多いと思われるため、この私で良いのだろうかという気持ちがありましたが、なったからにはしっかり務めなければと思っています。
かといって肩に力を入れすぎてはマネジメントに失敗し病を呼び覚ましたいつぞやの繰り返しになりますので、自分のため、また周りのみんなのため、そこは適度に。
よろず支援拠点というのは、中小企業・小規模事業者のための経営なんでも相談所、といった位置づけで、平成26年6月に国が全国47都道府県に設置したものです。毎年予算が組まれれば継続となる事業のため、来年はないかも、というスリリングな思いを抱きながらも、目の前の事業者さんのために全身全霊を打ち込んで相談対応をしてきました。私は事業開始の2年目、平成27年4月からこの事業に参画させていただいていますので、丸十年が経過したのですが、言ってみれば、昨日まで「ピン芸人」だったものが、翌日からいきなり19人の超有能なタレントさんを擁する芸能プロダクションのマネージャーになったようなものです。しかも自分自身も時々はステージに立たねばならない立場ということもあり、夢かエイプリルフールかのいずれかではないかと頬をつねってみても現実は変わらず、これまでとは時間の使い方も仲間との接し方も大きく変わりました。
やがてひと月が経過する段になって、この文章を書ける心持になりました。
今後「富山県よろず支援拠点」での仕事などについても触れる機会があるかも知れませんし、ないかも知れませんが、個人事業者である自身の、今年はメインの仕事になりましたので、身心に気をつけながら取り組んでまいります。
さて。富山県よろず支援拠点のチーフコーディネーターになって3日目、東京の全国本部から指示がありました。いわく「米国自動車関税措置等に伴う特別相談窓口」を設置しなさい、というものです。もちろん早速設置し、このことで我が富山県の中小企業・小規模事業者がマイナスの影響を受けても事業を継続していけるよう、相談対応をしていかなければならないと思っています。(一昨日、政府の五本柱「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」が発表されましたので、それらも踏まえて。)
米国のドナルド・ジョン・トランプ大統領の政策で、世界中が右往左往していますし、批判的な論調が目に付きます。彼の政策を経済学的に妥当だという論をなかなか目にしませんが、そのうち裏付ける理論が後付けで出てくるかも知れません。
経済学的な理論はともかくとして、日経新聞などを見ていると米国の批評家からも政策の粗暴さや憲法違反の暴君だなどと批判されていますが、それでも米国内では約半数の国民が支持している、というこのことは一体なんなんだろう?と考えてしまいます。新聞などにものを書く「賢者」が正しく、半数の米国民は無知・無教養で誤っている、ということなのでしょうか。だとすれば、選良たる共和党の国会議員や政府首脳も間違った人々なのでしょうか。Firedされるのが怖いから忠誠を誓っているという書きぶりもありますが、そもそも閣僚の多くは選挙戦の時から支持してきたのであり、選挙に負ければそれまでつぎ込んだ選挙資金も時間も無駄になってしまうわけで、そんな「賭け」をしてまでも支持してきた理由があるはずではないか、と考えてしまいますし、米国人の半分が知的に劣っていると考えるのは極めておこがましいことではないかと思います。
そうした矢先、小松左京さんの『アメリカの壁』という小説に行き当たりました。もちろん現大統領が出てくるずっと前に書かれたSF小説ですが、この小説を読んで、今の米国の半分の人々の「思い」に近づけたかも知れない、という仮説を持ちました。https://amzn.to/3Yk2E7Q
高坂正堯さんの『文明が衰亡するとき』という著書にもありましたが、大国はその重みに耐えかねて自ら衰亡するという主旨です。ローマも帝国の版図を維持し続けることができず(財政面や国家市民の奉仕心などの減衰によって)、既に傭兵などとして浸透していた「蛮族」の激しい攻撃に耐えられず、他方市民の心の拠り所となっていた一神教にすがることによって皇帝の権威がなくても生きていけるあっても関係ないというような思いになっていったのではないかと感じています。
小松左京さんの小説は、米国民が「外の世界に、ひどくいやな形で傷つき、シュリンク(萎縮)しはじめた」ために、もうこれ以上「むしられ」ないよう自国だけで生きていこうと、領土領空を覆う霧を作ってしまう、というもので、「孤立で受けた損害よりも利益の方が大き」く、「もう外の世界から泥沼のような援助をもとめられたり、支配力や影響力のぐらつきに焦ったりしなくても」良くなり、資源はなんでもあり食料はありあまるほど生産できるので「たった一国でも生きのびる」力を持っているというようなことが書かれています。もちろんSF小説ですから、それが今の米国の実相だというつもりはありませんが、これだけ世界から問題視されている大統領が国内では半数の人から支持されているというのはそれなりの(彼らからして)真っ当な理由があるはずだと考えるのは不自然なことではないのではないかと思います。
つまり、米国の人々は、世界中に対する関与に疲れ、少し「普通の国」になりたがっているのではないか。その昔人気絶頂期のキャンディーズが「普通の女の子に戻りたい」と言って解散したのと同じような心情かも、と感じています。思えばオバマ大統領が「もう世界の警察官じゃない」と言ったことが「普通の女の子になりたい」と言ったキャンディーズの思いと通ずるところがあるように感じます。
私の学んでいる「交流分析」という心理学では、コミュニケーション過多で疲れると、一旦他社との交流から離れて一人になりたくなることがあり、そのことを「閉鎖・引きこもり」と言い表しています。この単語はマイナスのイメージがあるかも知れませんが、放出しきったエネルギーを蓄積し、再び他者とコミュニケーションを取るための準備期間が必要になるための行為、という見方もできるようです。
私などはこれまで一部のビリオネアの姿ばかりに目がいき、ウォールストリートやデジタルビリオネアがアメリカだ、という風に感じていましたが、存外それらの人は本当に1%程度であり、残りの多くはヴァンス副大統領が書いた『ヒルビリー・エレジー』の世界の住人だとすれば、自分たちの納めた税金が自分の生活を守るためでなく他国の戦争の武器購入や他国の難民の生活のために使われていることに耐えられない不満を持っていると考えるのは無茶な想像ではないように思います。そんな考えは近視眼的だという批判もあるでしょうが、自らの立場で考えると、果たしてそうかなとも思います。
トランプ大統領は「Make America Great Again」と主張しています。確かに小松左京さんの小説に描かれている大統領も「輝けるアメリカ」という主張をして当選したようですし、「みんな、自信を取り戻そうよ」という呼びかけは、ロジカルに大国の役割を主張するよりもよほど心に響きますし、萎えた心を鼓舞するには必要なスローガンだと思います。しかし彼らの本音は「もう、別に世界から尊敬されなくてもいいから、世界の警察官を務めるのも大変だから、とにかく自分たちの生活をなんとかしようよ Make America Shrink Again」ということなのではないでしょうか。「MAGA」というスローガンの背後に隠れている本音は「MASA」なのでは?と考えると、彼らの支持と政策がなんとなく整合性が取れているように感じられるのです。もしもそうなら、自動車一つとっても、日本市場に売るための努力をしないからではないか、という論理的な反証をしても彼らにはなんら響くことはないように思います。米国を市場としてあまり期待しないという方向性もありかも知れません。もちろん関税分が高くなっても買って下さる米国顧客には従来どおり販売すれば良いのですが、シュリンクしたがっている米国市場をこれまで同様の巨大市場であると思わず、違う国を向いて商売していくという風に割り切るのも一つではなかろうかと思います。
昨4月26日の日経新聞「経済論壇から」にありましたが、黒田東彦氏は「米国は外国の資源や市場に依存せず、すべて自国の中で生産して完結するという方向性で、保護主義というよりも孤立主義」と見ており、小松左京さんの小説と同じことを述べておられるようです。とはいえ、現時点でドルは基軸通貨であり米国が大国であることに変わりはなく、この先も当面は「国際関係のハブ(岩井克人氏)」でしょうが、トランプ政策を支持しているであろう半数の米国民の思いも考えることで、私たちの打ち手も「米国に売るためになんとかしよう」という考え方から解放されることにつながるかも知れません。
ブログの更新ありがとうございます。またチーフコーディネーターに就任されたとのことで誠におめでとうございます。前回古川さんが同席されたのはそういうことだったのですね。なお心身の健康が第一ですので無理のない範囲で頑張っていきましょう。
ありがとうございます。
慣れないマネジメント業務ですが、日頃人様に偉そうにこうあるべきだなんて言っていますので、自身の発言となるべく矛盾のないようにと思っています。
今度は私の方から相談させていただくこともあるかと思いますが、その節はよろしくお願い致します。