福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』

LinkedIn にシェア
Pocket

2007年5月に一刷、10月に十一刷ということですから、ちょうど14年前に購入した本ですが、今頃、ようやく読了しました。PCR検査のことが書いてあるという話をどこかで目にし、その部分だけは昨年読んでいたのですが、そこだけ読んでもよくわからない状態でした。最近ある本で「動的平衡」のことが書いてあったことと、『生物はなぜ死ぬのか』という同じ講談社現代新書(小林武彦氏著)という類似書籍を手に取ったこともあり、関係づけながら読むと複眼・多面的に理解できるかも、と思い、慌てて書架から引っ張り出して一気に読みました。

この本の一番のテーマは「動的平衡」ということのようです。そして、生命においては、「動的平衡」を「乱すような操作的な介入を行えば、動的平衡は取り返しのつかないダメージを受ける」ので、生命科学をつかさどる医学者といえども「なすすべはない」といった慨嘆のようなことも書いてはありますが、それでも生命はとても力強い仕組みになっていることは巻を置いても強い印象となって残っています。

エントロピー増大の法則に沿えば、秩序は崩壊していく。しかし、その秩序を守るために、生物の内部に必然的に発生するエントロピー(様々な刺激で細胞などが変容・破壊されていく過程)を排出する機能を担っている、とのことで、エントロピーの法則によって生命体が壊れる前に一部を壊して自己複製でまた同じものを作ることが、強固な建築物を作るよりも維持しやすい、ということのようです。

ある意味、伊勢神宮が二十年ごとに建て替えられていることをも想起させられるような気がしました。

人の組織でも、同じようなことが言えるように感じます。組織文化というものがあり、長い年月その組織内で醸成される文化・風土・空気というものが、動的平衡を作っていき、それが組織の価値観として、成員の無言の前提となり、経営者もマネージャーも社員すらもその前提を当たり前のものとして判断・行動する。それが結果的に、何度でも検査不正を働いてしまう某自動車会社であったり、あるいは、どれだけ改善しようとしても赤字から抜け出せない企業体質であったり(潰したら銀行も困るからお金はなんとかなるという期待?)、動的平衡にはそのような良くない状態の維持もあるのではないかと思います。ソニーやリクルートのように、前例主義ではない、異質な人材を取り込む、といったことが企業活動の中に埋め込まれている企業はそうではなく、また高度成長時代の日本企業のように、作れば売れる時代であれば、悪しき動的平衡が問題になることはなかったのだろうと思いますが、これからは悪しき動的平衡を持つ企業はなんとかしなければならないのではないかと思います。

そうした動的平衡を崩すのは、内部の力ではなかなか困難であろうと思います。例えば中小企業診断士のような外部の経営に関する専門知識と高い志を持つ人が真剣に経営者と向き合い、誠心誠意変化を説くことで変化をもたらすきっかけが提供できるのかも知れません。その際よって立つ根拠は、まずは、その会社の創業の理念であったり、今の時代に改めて考え直すパーパス(企業の存在意義・存在目的)であったりするのかと考えています。

LinkedIn にシェア
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です