水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』『株式会社の終焉』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』

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 エコノミストの水野和夫さんの本を3冊。いや、すごい歴史認識に立脚した本だと思いました。
 実はこれらの本は、水野さんが2008年から毎年富山県利賀村というところを訪れられ、SCOT(鈴木忠志さん主宰)という劇団の演劇を観続けてきたある時に受けたインスピレーションによってお書きになったというエピソードがあります。これは驚きでした。数百年単位で訪れる歴史の大転換期かも知れないという話が富山で行われていた演劇からヒントを得られたとは。

 さて。
 私たちが所属し、当りまえのようにその中で生きている資本主義経済が今後どうなっていくのか、という問いは常に存在してきたように思います。
 もちろん容易に答えられる問題ではないし、本を数冊読んだところで解答が見つかるものではないと思います。
 3年前に上梓され、当時ベストセラーの一つになった水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』、ずっと積読状態でしたが、その後対談本なども出つつ、また昨年秋と今年になりその続編的な本が出ました。昨年出たのが『株式会社の終焉』。経営コンサルとしては、クライアントである企業組織というものが今後どういう歴史に直面し、どう振る舞っていくべきなのかを考える参考として、これは読んでおかなくてはと思い、発売即購入。しかし2冊とも、どうも難しく、さらには今後どう振る舞うべきなのかの処方箋が見つかりませんでした。
 著者の水野さんは自分ごときに答がわかるはずがない、ゆっくり考えていかなければならないのだ、と仰っています。確かに数百年にわたって世の中の根本原理的だったものが、変化してその後どうなるのかという姿なぞ、そう簡単には見えないだろうというのは無理もありません。
 そこへ3冊目『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』という本が出ました。そろそろ解答編かな、と思い、購入。3冊まとめて読みました。

 まずはそれぞれの本のインデックスを拾ってみます。

 1.『資本主義の終焉と歴史の危機』
 ・資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
 ・新興国の近代化がもたらすパラドックス
 ・日本の未来をつくる脱成長モデル
 ・西欧の終焉
 ・資本主義はいかにして終わるのか

 2.『株式会社の終焉』
 ・株高、マイナス利子率は何を意味しているのか
 ・株式会社とは何か
 ・21世紀に株式会社の未来はあるのか

 3.『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』
 ・「国民国家」では乗り越えられない「歴史の危機」
 ・例外状況の日常化と近代の逆説
 ・生き残るのは「閉じた帝国」
 ・ゼロ金利国・日独の分岐点と中国の帝国化
 ・「無限空間」の消滅がもたらす「新中世」
 ・日本の決断-近代システムとゆっくり手を切るために

 インデックスだけを見るとそれぞれ異なる印象はありますが、3冊ともほぼ同じ内容です。
 しかし私は3冊読んでようやく全貌が理解できました。3冊読まないとわからないというのは、ひとえに私の理解力が弱いためであり、著者や出版社がどうこうというつもりはありません。
 自分自身の控えとして、これら3冊に書いてある重要なキーワードをつなげておきたいと思います。

 ・資本主義は資本の自己増殖のプロセス。資本主義には「周辺(途上国)」の存在が不可欠。
 ・資本主義は「蒐集(しゅうしゅう)」で成り立っている。
 ・それは「無限空間」を前提としている。しかしもはや無限に拡大するという前提には立たない方が良い。
 ・その証拠がドイツと日本などのゼロ金利、マイナス金利の出現である。
 ・「無限空間」を前提にした資本主義は「より遠く、より速く、より合理的に」という論理でものごとを行う。
 ・その結果「セイの法則」に基づいてどんどん生産する。
 ・これは資本主義の論理であると同時に、民主主義の論理でもある。民主主義は一部の人しか使えなかった財をより多くの人が使えるようにすべきという考え方だから。
 ・空間が有限になってしまったので、「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)によって、だいたい3年ごとにバブルが崩壊して資本の蓄積が図られるようになってしまった。
 ・生産力が過剰になると、新規需要が発生せず、不良債権化する。
 ・これ以上モノがいらなくなると投資してもリターンが見込めなくなる。それがゼロ金利の原因である。
 ・ケインズはゼロ金利を望ましいことだと考えていた。そして、人生の目的として「人間交流の楽しみ=愛」「美しきものに接すること=美」「知性主義=真を求めること」だと考えていた。
 ・今なすべきことは、21世紀はどんな時代かをまず立ち止まって考えること。
 ・これからの時代は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」、今の前の時代である「中世」を参考に(中世を全面肯定しているわけではありません)。
 ・その方向性にいち早く舵を切ったのはEUであり、日本はEUと連携していくべきである。
 ・今後は成長主義から定常状態=減価償却の範囲内でしか投資を行わない=に移行していくことが必要なのではないか。
 ・そのためには①財政の均衡、②エネルギー自給率の向上(家庭ぐらいはせめて)、③地方分権を進めて身近な空間でものごとが終止できるように、という方向性が必要なのではないか。
 ・企業は利潤=創出された付加価値=を新規投資に回さず(研究開発が不要とは言っていないものの、純投資は負担の割にはリターンが小さいので)、雇用者の賃金に回し、そうすれば今よりも1.5倍程度の賃金が得られ、家計は増えた収入の一部を地域金融機関に預け入れる。これは利息ゼロの株式預金とし、現金利息ではなく現物で配当を受ける。つまり地域住民は地域金融機関を通じて地域の企業の利害関係者となる。地域の企業は顔の見えない株主に株式を売り買いされる不安定さから解放されるべきである。トヨタ自動車の新株(配当固定、元本保障、5年間は売買不可)はまさにその先鞭かも知れない。

 ・・・と、とても難しい内容で、私はまだ数回読み直さなくてはたぶんちゃんと理解できないのだろうなあと感じています。
 もちろん水野和夫さんの言っておられることが正しいかどうかはわかりません。こういう見方もあるのだということです。
 

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