以前どこかで<面白い映画だ>と聞いたような記憶がかすかに残っていました。たまたま手に入ったので読んでみました。
映画の脚本を基にして黒田邦雄さんという人が著した本です。
一人の女性を描いた肖像画。
「裸のマハ」というのは後世につけられた名前だとか。
絵は裸体のものと衣服を着用したもので同じポーズのものが2種類あり、絵が描かれた18世紀末は女性の裸体の絵などは極めて不道徳であり、唯一ベラスケスが描いた「鏡のヴィーナス」という後ろから裸像を描いたものぐらいで、正面から描いたものなどなかったそうです。
そのため絵の依頼主であるスペインの宰相マヌエル・デ・ゴドイは衣服を着た絵との2枚を制作させ、額縁の中に二重に入れておき、着衣のものを表側に、裸体のものをその後ろに配置し、自分が見たい時だけ着衣の絵をスライドさせて抜き取って見られるようにしていたとのことです。
絵を描いたのは、かのゴヤ。
ゴヤとゴドイは大変仲が良かったそうです。
しかし「マハ」という人物が誰なのか、実際のところよくわからない。
ゴドイという依頼主は当時の王妃マリア・ルイーサの寵愛を受けて25歳の若さで宰相になった元近衛兵。彼は王妃だけではなく貴族の公爵夫人とも深い間柄にあり、しかも奥さんがいて、さらには愛人までがいたという人物。王妃と公爵夫人の間を3日がかりで馬を駆けて往復していたというから相当タフな人ですが、一体いつ政治をしていたのか・・・。
ゴドイが描かせた「マハ」はどの女性だったのか、そして権力と愛をめぐっての争いの最中で毒によって命を落とす女性、殺人か事故か自殺か。宮廷を舞台に幾人もの思惑やら愛憎やら事件やらが複雑に入り乱れ、謎が謎を呼ぶという展開です。
史実を基にしたフィクションだと本の奥付には書いてありますが、史実も相当ややこしかったようです。
この物語の後、スペイン国王の息子がクーデターを起こし、国王、王妃、宰相ゴドイらは1808年に追放されたとのことです。
ゴドイは追放後紆余曲折を経ながらも1851年まで43年間84歳の年まで生きていたということなので、当時としてはなかなかの長寿だったのではないでしょうか。
あっという間に斜め読みしましたが、面白い小説でした。宮廷のドタバタ劇、スクリーンで観ると楽しみが倍増するような気がします。