静岡銀行出身の小出宗昭氏の書かれた『小出流ビジネスコンサルティング』という本。
小出氏は「富士産業支援センター 通称f-Biz」と言われる中小企業支援機関のセンター長である。
“企業支援のカリスマ”などとも言われ、今や経済産業省のご意見番的な存在になっている。
さてこの本は、近代セールス社という出版社から出されている。
主に銀行員向けの業界誌や通信教育などを手がけている。
そのためか、小出氏自身は既に銀行に籍は置いておられないと思われるが、語り口調は主に小出氏の後輩たる若き銀行員に向けて語られた「こうあって欲しい」「こうあるべきだ」「そのためにはこういう姿勢で企業経営者と接して欲しい」といった書き方になっている。
もちろん銀行員以外が読んでもいいのだが、ご本人の出身母体や出版社の性質上、その辺は少し差し引いて理解しておけば混乱しなくていいような気がする。
さて内容。
コンサルとしては極めてオーソドックスな、定石について書かれた、コンサルのイロハ、であると思う。
しかし、決して教科書的ではなく、小出氏自身が、銀行というどちらかというと、顧客企業と対等以上の立場にいらっしゃった所から、顧客企業と同じ目線、同じ立ち位置にまで降りてこられ(その間の葛藤はあったと思うが)、顧客企業の目線、さらには顧客企業のお客さんの目線からものを見、実際に知恵を出し相談相手に提携先の紹介をしたり新商品のネーミングを考えたりプロモーションの手伝いをしたりという、実体験に基づいた書き物であり、その点が、そこらのコンサル教科書本と大いに異なる点である。
書かれていることはオードソックスで教科書的であるが、その背景にあるものがご本人が(恐らく)七転八倒してつかんだ、本当の体験に裏打ちされているので、単語ひとつ取っても空疎な感じがない。一つひとつの言葉に重みがあるので、すっと心に入ってきて、しかも残る。
この本の中、どこを切っても生々しい血流が吹き出すような感じなのだが、当然全部は紹介できない。
ここでは、私が特に重要だと思った3つの着眼点のうち、1つをご紹介するにとどめる。
おしまいの方に、企業支援者にとって必要な3つの資質について書かれている。
1.ビジネスセンス
これすなわち、相談者(企業経営者)の真のニーズを引き出し、それを本人に自覚させ(教えるのではなく、自分で気がついた、と納得してもらうことがその後の本気の取組において極めて重要)、相談者とともにセールスポイントや経営課題を見出し、成果・解決に結び付けられる能力、のことだと定義されている。
そしてそのプロセスには(1)課題発見と(2)アイディアの具現化が必要。
(1)課題発見のポイントは①強みが明確か?②ターゲットの設定は適切か?③セールスポイントがターゲットに対して正しく伝わっているか、の3点。
(2)アイディア具現化(つまり、企業の課題を解決するために取り組むべき事項)のポイントは①世の中のトレンドや顧客のニーズに対して自社の強みを適切に充てること、②現実的であること(実現できること)、③リスクを最小限に抑えつつチャレンジできる方法を考えること、の3点。
2.コミュニケーション力
①信頼構築のための聞き出す力
②相互理解のために質問力
③経営者の行動を促すための伝える力
(世の多くのコンサル本では、「聞き出す力」と「質問力」などは言葉が似ているので、誤解されないように、往々にして違う単語を使ったりする箇所であるが、小出氏はあえて誤解を恐れず、類似の単語でありながら自分の言葉として使い分けておられる。このあたりが「千万人と雖も我往かん」の既成の権威を恐れずに猛進する小出氏の真骨頂が表れているような気がする。)
3.情熱
ということである。著書にはたとえば、ビジネスセンスを磨くにはどうしたら良いか、だとか、経営者から信頼される質問をするためには日頃どういう心掛けが必要か(上から目線の仕事の仕方に慣れている人は直しなさいね、と書いてある)、などについても平明に説いてあるのだが、ここではこの辺にしておく。
基本的な内容ではあったが、実践に基づくという点が大変参考になった。
コンサルタントも営業に忙しいビジネスパーソンも、日頃の鍛錬が大切なのは一緒だ。