イワシとナマズの話

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 会社の常務から「イワシとナマズの話」を知ってるか?と聞かれた。
 知らない、と言うと、教えてくれた。
 イワシは海の魚である。
 それを淡水の生簀で運ぶと、普通は死んでしまう。
 そこでナマズを一緒に入れて運ぶ。
 ナマズはバタバタするらしい。
 バタバタするナマズと一緒に入れられているものだから、イワシは興奮して暴れるらしい。
 そのため、死なずに無事運ばれるという話だ。
 常務は私たち外の世界から来た人間に、そのナマズになってくれと言う。
 菊澤研宗さんという人の本に『組織の不条理』という名著がある。
 ここに似たようなことが書いてある。
 組織が硬直化し、正しいことが通用しなくなる、世間の当たり前の常識が組織の論理の前に封殺されてしまうことを防ぐために、ソニーあたりは意識的に異物を取り込み、組織が不安定になるように注意深く運営している、といったような話である。
 「イワシとナマズの話」はまさしくそういうことだ。
 今度私の職場にまた新たな外部の血が取り込まれる。
 転職組である。
 その人とともにナマズになってくれ、というのが常務の意向だ。
 なかなか「井の中の蛙」のような会社であり、世間から見ると非常識だと思うような言動も多い会社である。
 社員たちは怒られ続けて気力が萎え、若いほど忠誠心や帰属意識が薄れている。
 一朝事があるとガタガタに崩壊する危険を孕んでいる。
 しかし、上の常務の言葉に表れるように、異物を取り込んで変化していこうとする姿勢があるということは、まだ生き残る見込みがあるのかも知れない。
 だったら、自分の都合のいい時に「頼むね」というだけでなく、もっと積極的に私の話に耳を傾けたらどうか、などとも思うが、ま、そんなものかも知れない。
 こちらもこれからも当たり前の感覚を忘れずに、時々は「こうした方がもっといいですよ」てなことを上層部に機会がある都度申し上げて行こうと思う。
 批判だけなら発展しないし、ただの評論家と思われて終わりだ。
 まずは今の組織の中でしっかり仕事をして、この人の言うことだから、と耳を傾けてもらえるだけの実績を作れねばならない。そうしないと、結局「それはあんたの前の会社の話だろ」と言われておしまいであるから。
 日本の組織は「何を言うか」ではなく相変わらず「誰が言うか」で左右されるのだから。
 ま、いずれにしろ、職場に私のような異人が増え、また会社が異物を意図的に取り込んでおり、自ら変化していこうとする姿勢が見える、ということは大変良いニュース。

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