父のように慕っていた、就職して最初の上司。
Tさんが亡くなって早4年になる。
Tさんがこよなく慕っていた人物。
会津八一と良寛。
お目にかかるたびに、この二人のことを語っておられた。
しかし、何を言っておられるのか、20代、30代の頃はよくわからなかった。
いや、47歳になった今をもって実はよくわからない。
たぶん、とても奥深いことを語っておられたのだろうと思う、が。
Tさんは数学者であり、大手通信会社の課長であり、舞台照明の技術者であり、3人の娘を持つ父親であり、布団をかつぐことは家族のために良くないと決して単身赴任をしなかった人であり、書物(ハードカバー)を三千冊持つ読書家であり、セロニアス・モンクの音楽を愛し、晩年は木工細工を教わりながら染物や書き物などをなさった、我が父のような存在だった。
さて、その会津八一と良寛。
「父」がこの上なく慕っていたこれらの人物はともに新潟に深いゆかりがある。
特に良寛は、道元の弟子でもあり、随分前からとても気になっていた。
富山の水墨画美術館で良寛展があれば出かけ、映画「阿弥陀堂だより」で良寛の書「天上大風」が田村高廣さん演じる先生のお宅にあれば、それと同じものを求め、良寛の本があれば買って格闘している。う~ん、わからん。良寛って一体・・・。
でも、ただ一つわかったような気がしたことがある。
良寛の書を見て思ったことだ。
Tさんの書体とよく似ている。
ふと思ったこと。
Tさんは良寛になりたかったのではないか。
新潟の燕あたりに、良寛が起居していた五合庵という寓居がある。
今週末、ようやくそこを尋ねる計画ができた。
良寛を訪ねる、と言いつつ、実は「父」を尋ねることであるのかも知れない。
Tさんの心象風景を少しでも感じたい、それが私の新潟行きの真の目的なのだろうと思う。