語り部(かたりべ)という仕事がかつて我が国にはあったらしい。
昔から伝わる説話や神話を語り伝えることをなりわいとしている人々のことであるらしい。
さて今から30年ほど前、高校生のときに、この魚津という田舎町に流行作家の半村良さんがやってきた。
文芸春秋主催の「文化講演会」というようなものではなかったか。
講演者は、半村良さんのほかにもう一人いたが、覚えていない。
話はすっかり忘れてしまったが、1時間ぐらいの講演で、ご自身のある体験談だったように思う。
聞くほどにどんどん引き込まれて行き、話しておられる内容が目に浮かぶような感じだった。
ところが、最後に、これらは全部夢の中の出来事だった、というオチで、一気に現実に引き戻されるような、目の覚めるような話の展開だったような気がする。
その急転直下の展開があまりに鮮やかだったので、しばらくはぼうっとしていた。
半村良さんが、冒頭に書いた「語り部(かたりべ)」にかこつけて、「嘘部(うそべ)」というようなキャッチフレーズで文壇におられ、その小説は語り部が語るが如く、虚構なのに現実世界を細部までこと細かく反映して嘘を構築する、ということはその時点では知っていたが、まさかご自身の講演でもそれ(虚構を巧妙にホントのようにつむぎだすこと)をされるとは、いやあ一本取られたなあという感じであった。
それ以来半村良さんの小説にのめりこみ、『産霊山秘録』や『石の血脈』『魔女伝説』などの伝説シリーズなど、いわゆる伝奇ものを読み漁った時期があった。
今日ラジオで「語り部」という言葉を耳にし、ふと、昔のそんなことを思い出した。
半村作品はまだまだ読んでいない人情ものやSF作品なども沢山あるので、これからも読んでいきたいものだ。(時間があれば)