尊敬している夫婦がある。
妻とも、結婚前から、あんな夫婦になれたらいいね、と理想像として描いていた夫婦である。
もちろん、内実はわからない。
色んなことがあると思う。
当然切った張ったの夫婦げんかもあろう。
別れ話だってあったかも知れない。
しかし、夫唱婦随というか、お互いのいいところを認め合って、役割分担をきっちりなさっていて、でも柔軟にそのときの状況に応じて、やっておられる。
しかもそのベースはお互いの揺るぎない信頼感なのだと思う。
その夫婦のご家庭に、10年ぶりぐらいで訪問した。
夫は65歳、妻は60歳である。
もちろん、まだお二人とも全然ボケなどとは無縁に見えるが、忘れるということはあるようだ。
そのために、若い頃は「言っただろ」「聞いてない」というケンカが結構あったようだが、最近はそういうことによるケンカの愚を避けるため、「言った」「言わない」ということが元での言い争いはやらないことに夫婦で決めているんだそうだ。
ものすごく賢明なことだと思う。
知恵だな、と思う。
そんなことで時間を潰し、お互いぎくしゃくするくらいなら、「あ、伝わってなかったっけ? じゃ、これ頼みたいんだけど」と、そこからリセットして再開すればいいのである。
聞いてなかった方も「うん、わかった」と素直にそこから始めれば良いのである。
争いをしようがしまいが、その時点では何もできていないのだから、ムタムタとケンカで時間を浪費するよりも余程良い。
仕事で「聞いてなかった」とか「そういうふうには理解していなかった」というのは許されないし、そんなことを言った瞬間に<社会人として失格>という烙印を押されかねない。
しかし、本当に「聞いていなかった」あるいは「そうは理解できなかった」ということがあるのが人間の社会の常であるので、相手に伝わらなかったのは相手がアホなのだ、相手が悪いのだ、と一方的に他者を責めるのではなく、自らの伝え方に問題がなかったか、と振り返る契機にすることはできるかも知れない。
それが人間関係を円滑に回す秘訣かも知れない。
もちろん夫婦ほどうまくは行かないかも知れないが、ちょっと引いて考えることはできるのではないか。
そんなことを考えさせられた先輩夫妻の一言であった。
帰路、車の中で、いいことを教わったねと妻と反芻した休日であった。